育む社会へ 保育士不足の背景(上) 待遇の現実

 「独身で実家暮らしだから、やりがいだけでやっていけるけど…」。藤枝市内の私立保育所に勤めて丸3年の女性保育士(27)は、賃金の低さに「夢がない」と嘆く。月の手取りは13万円台。40代後半の先輩は勤続10年で、20年以上の経験があるのに、自分の月給と約1万円しか変わらない。

安全確保に努めながら、一人一人の発達に応じたアプローチを試みる保育士。やりがいも責任も大きい=静岡市内の私立保育所(本文の保育士とは関係ありません)
安全確保に努めながら、一人一人の発達に応じたアプローチを試みる保育士。やりがいも責任も大きい=静岡市内の私立保育所(本文の保育士とは関係ありません)
安全確保に努めながら、一人一人の発達に応じたアプローチを試みる保育士。やりがいも責任も大きい=静岡市内の私立保育所(本文の保育士とは関係ありません)

 女性は大学卒業後、保育所で調理員として働いた時に保育の仕事に魅了され、通信教育で資格を取った。ベテランの先輩は、子どもを伸ばすためのアプローチが多彩で保護者からの信頼も厚い。経験が物を言う仕事だと実感している。しかし、昇給は年に千円ほど。周りには、結婚や出産を機に辞めたまま復帰しない人が多い。「結婚しても共働きでないとやっていけない時代。保育士を続けたいが、他に割のいい仕事はいくらでもある」
 厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、この10年間、民間施設で働く保育士の平均勤続年数は女性が7〜8年、男性は5〜6年前後でそれぞれ横ばいだ。県内の保育士資格登録者約3万1千人の96%が女性(2014年4月1日現在)。県は、公私立の保育所で働く約9600人を除いた約2万人を、潜在保育士と見込む。
 全国のハローワークが13年、潜在保育士を対象に行った調査では、保育士として働きたくない理由に「賃金が希望と合わない」を挙げた人が最も多く、20代と30代では6割近くに上った。
 「転職するならそろそろタイムリミット」。県内の私立保育所に勤める20代後半の男性保育士は、30歳を前に焦りをにじませる。手取りは月17万円台。昨年出産した妻は4月から再び働きに出るが、「共働きでも、わが子を人並みに習い事や大学に通わせられないかも」と不安が募る。
 勤務は早番や遅番のあるシフト制。帰宅後はほぼ毎日、わが子を寝かせてから深夜まで、カリキュラムの作成や園児の工作の下準備に追われる。「子どもの人格形成の礎に影響を与える仕事。やりがいも責任も大きい」と自負する半面、「お金がついてこないのはつらい」とため息をついた。
 「長年、現場を支えてきたのは“主たる生計者”ではない女性だった」と静岡市内の女性園長(52)。静岡労働局の林大輔雇用開発主任(40)は「人の入れ替わりが早く、保育士全体の勤続年数と平均給与が上昇しないため、国も短い勤続年数と低い給与に見合う予算しか付けない。悪循環に陥っている」と指摘する。
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 保育・教育の受け皿を充実させる「子ども・子育て支援新制度」が新年度に始まるのを前に、保育士不足が深刻化している。働く親を支える存在でありながら、働き続けるのが難しい環境の背景に何があるのか。個人の志に頼らざるを得ない現場と、女性の「腰掛け」的な働き方を前提とした制度上の問題が見えてきた。

 <メモ>静岡労働局によると、求職中の保育士1人にどれだけの求人があるかを示す有効求人倍率は今年1月、2.1倍に上昇した。潜在保育士の掘り起こしが急務になっている。厚労省の2014年賃金構造基本統計調査によると、民間施設で働く保育士の平均月給は、残業代や手当を含めて額面21万6100円(平均年齢34.8歳)。管理職を含めた全職種と比べて11万円低い。

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