<家族 命を守る>東日本大震災の教訓(中)

 「大地震発生から半日、避難所で若い女性から授乳できる場はあるかと聞かれました。スペースには限りがあります。あなたならどうしますか」。2月上旬、静岡市葵区の県防災センターで県などが開いた女性のための防災リーダー養成講座で、講師の池田恵子静岡大教授が60人の受講者に問い掛けた。

県が開いた女性防災リーダー養成講座で意見を交わす参加者=2月上旬、静岡市葵区
県が開いた女性防災リーダー養成講座で意見を交わす参加者=2月上旬、静岡市葵区


 「毛布を持って囲ってあげたら?」「着替えもできる場としてスペースを確保したい」―。班ごとに分かれて行われた議論が熟したころに池田教授は「災害直後は誰もが命を守ることに必死。待っているだけで授乳室や間仕切りはできません」と指摘した。「だからこそ、災害が起きる前から対策に生活者の視点を盛り込んでおくべきなんです」

 乳幼児や介護中の老親を連れての避難生活は肩身が狭い。不特定多数がひしめく場所での着替えは困難で、下着も干せない…。開発途上国の災害とジェンダーを研究し、東日本大震災後は被災地支援を行った池田教授。女性ばかりに炊き出し当番が割り振られ、朝から晩まで炊事に追われて疲労困憊(こんぱい)する主婦らの声を聞いた。一方で、災害直後にさまざまな要望が集中して混乱する男性リーダーたちの悲痛な声も拾い、「地域の減災のために、男女共同参画の視点が重要」と訴える。

 震災の教訓を受け内閣府は2013年、男女共同参画の視点を盛り込んだ防災・復興の取り組み指針を作成した。県や県内市町も地域防災計画の見直しや対策を強化している。ただ、町内会などの自治会役員が自主防災組織のリーダーを兼務する地域が大半。避難所運営や備蓄などの対策に“女性の視点”を盛り込む現場レベルの取り組みは道半ばだ。

 「『家事に仕事に忙しい上、自治会役員なんて引き受けたくない』という思いは誰も同じ。意見を地域に反映させるためには、役員ポストに女性は必要」。10年前、掛川市構江地区で同区初の女性自治会役員を3年間務めた曽根順子さん(51)はこう話す。

 曽根さんが役員になったのは、担い手不足で「女性にも役員を引き受けてもらわないと困る」と説得されてのことだった。旧金谷町から掛川に転入して間もなく、当時は40代前半。60代以上の男性中心の会合に当初は、恐る恐る参加していた。

 日ごろ主婦同士でこぼし合っていた地域への不平不満を解決できるのも役員の仕事だと気付いた時に、気持ちが切り替わった。自治会も女性登用の利点を評価し、役員に必ず女性を据えるために区の規約も改定された。

 同地区は09年、防災訓練で「男性が炊き出し、女性がテント張り」と、従来の男女の役割を実験的に入れ替えた。すると、数百人分の食事を用意する大変さを理解した男性陣が、翌年以降も炊き出しに参加するようになった。かつては女性の役割だった祭典の給仕も男女混合に変わり、主婦らの声が徐々にではあるが、地域運営に反映されるようになった。

 自治会役員の経験を機に防災意識が高まった曽根さんは今、市民グループで東北の復興支援に関わっている。被災地との交流を通じ「普段から女性が地域に参画していれば、減災につながる」と実感している。

<こち女の目>参画は「いつか」への備え
 「平日の昼間に大災害が起きたら、地域にいるのは女性とお年寄りばかり…。その時『どうしよう』では遅いのよ」。NPO法人御前崎市災害支援ネットワーク代表理事の落合美恵子さん(57)は話す。
 ファイナンシャルプランナーでもある落合さん。2004年の新潟県中越地震後、生活再建の支援を目的に被災地を訪れたのを機に、地元でも啓発活動を始めた。男性中心の防災対策に危機感を募らせ、一昨年から女性向けにリーダー養成講座も開く。「『自分は大丈夫』『誰かがやってくれる』では、命は守れない」と訴える。
 わが身を振り返ればどうだろう。地域の防災訓練は、参加というより傍観者。数年後に控える地区の組長当番に戦々恐々としている状態で、地域参画とは程遠い。でも、「いつか」はきっと来る。身の丈に合った参画の仕方を模索したい。

(石井祐子)

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