<依存という病>アルコール(中) 望まぬ転機 苦痛紛らす

 結婚、出産、子育て、再就職…。女性は人生の中でさまざまな転機を迎える。

アルコール依存症の女性と語らう響子(手前)=県内
アルコール依存症の女性と語らう響子(手前)=県内
アルコール依存症の女性と語らう響子(手前)=県内

 特に酒が好きでもなかった県内のアルバイト響子(54)が、現実逃避のために飲み始めたのは、2人目の出産という転機を迎えて間もなくのこと。
 幼いころ、父を病気で亡くした。響子には兄と2人の妹がいた。母は4人の中で、兄だけを偏愛した。そんな家庭から逃げたくて10代で結婚し、26歳で男の子を産んだ。母が兄にしたように、長男を溺愛した。
 長男を帝王切開で産み、医師から2人目は控えるよう言われた。ところが2人目を強く望む夫に逆らえず、次男を出産。時を待たずに夫の転勤で出身地を離れ、県内に引っ越した。慣れない土地で子育てに追われ、ストレスが重なった。2人目を欲しがった夫への恨みも募った。
 会社員の夫と幼稚園の長男を送り出して次男と2人きりになると、深酒が始まった。「飲んで、酔って、全てを忘れて寝ていたかった」
 酩酊(めいてい)状態が続くようになり、次男は保育園へ預けた。夫が1人で家事と育児をした。それでも「私が飲むのは夫や子どものせい。やめようと思えばいつでもやめられる」と思い込んでいた。
 35歳ぐらいの時、夫に諭されて病院に行った。3カ月近く入院し、「断酒して良い母になる」と決意して帰宅した。息子たちは響子になつかず、「ママはいつ病院に戻るの」と問うた。決意は簡単に砕けた。ようやく、自力で酒をやめられないと知った。「心がどんどん壊れていくのが分かった」 
 「新たなストレスが加わったり、時間にゆとりができたり。転機をきっかけに依存症になる女性が多いと感じる」。県断酒会の会員として32年間、依存症者との交流を続けてきた県中部の良枝(71)は、言葉に力を込めた。自身も、仕事の付き合いで酒量が増えた。結婚後、夫の暴力や生活不安が原因で、さらにアルコールの深みにはまった。
 良枝が依存症になったころ、女性の飲酒に対して世間の目は厳しかった。「キッチンドリンカー」に象徴されるように、女性は自宅で飲んだ。「逆に今は社会進出が進み、男性並みに外でも堂々と飲める時代」。女性たちのすぐそばに、依存症への入り口が潜む。良枝はかつての自分を思い出しながら、「飲み方がおかしいのに依存症だと気付いていない人も増えているはず」と危ぶむ。(文中仮名、敬称略)

 ■女性、45歳前後から注意 ホルモン影響、体質変化も
 静岡福祉大(焼津市)の長坂和則教授(精神保健福祉士)は「心の満たされない部分を酒で埋めようとすると、アルコールに侵食されて抜け出せなくなる。多少でも飲む機会のある人は、誰でも依存のリスクがある」と警鐘を鳴らす。ホルモンの影響による女性特有の「イライラ」や、更年期障害の症状を解消しようと酒に頼る人もいる。
 アルコール専門の服部病院(磐田市)の山名純一院長は「依存症患者には、飲める体質の人が圧倒的に多い。ところが女性の場合、たしなむ程度しか飲めない人でも、女性ホルモンの減り始める45歳前後から急に飲めるようになり、依存症に進行するケースも多い」と注意を促す。「肝機能の数値が悪くなったら、依存症を疑ってアルコールの専門病院へ」と助言する。

 <メモ>アルコール依存症 山名院長によると、飲酒を自制できない「コントロール障害」か、酒がなくなるとあらゆる手段を使って手に入れようとする「探索行動」のどちらかの症状があれば、依存症と診断される。家庭的、社会的な問題行動が起きるのも特徴。

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