「あの日」もこの場所に…静岡で東北物産展 岩手ようかん店社長

 静岡市葵区の松坂屋静岡店で例年開かれている東北大物産展は発災当日も催しのさなかだった。岩手県奥州市のようかん製造販売「回進堂」社長の菊地清さん(65)は10年前のあの日と同じ売り場に立ち、万感の思いで節目の時を迎えた。

被災地に思いをはせ涙を拭う菊地清さん(左)=11日午後2時47分、静岡市葵区の松坂屋静岡店
被災地に思いをはせ涙を拭う菊地清さん(左)=11日午後2時47分、静岡市葵区の松坂屋静岡店

 東北6県の名産品が並ぶ催し場。地震の発生時刻に合わせ、11日午後2時46分、出展者や来場者が黙とうをささげた。「亡くなった人を思い、生き残った自分たちが頑張っていかなければと改めて思った」。1万6千人近い犠牲者を出した戦後最悪の自然災害。菊地さんはハンカチで目頭を押さえ、あふれる涙を拭った。
 10年前の同じ日、同じ売り場で大きな揺れに見舞われた。震源を確認すると東北地方。「静岡でもこの揺れなら、一体どうなってしまうのか」。空路を頼って3日後にようやく地元にたどり着いた。自社の工場は2千枚もの瓦が落ち、屋根が裂け、機材も壊れていた。1カ月半の操業停止を余儀なくされた。
 甚大な津波被害を受けた岩手県沿岸部をはじめ、被災地では復興が進む。300年以上続く老舗の11代目に当たる菊地さんも、家業を絶やすまいと、4億円をかけて工場を復旧した。「苦しい10年だったが、静岡の人たちが顔を覚えてくれ、待ってくれている。前を向かなければ」と言葉に力を込める。
 20年以上にわたり同物産展に関わるが、昨年は新型コロナウイルスの影響で中止になった。毎年、ようかんを購入する伊藤くに子さん(74)=静岡市駿河区=は「東北の人たちが頑張っている姿は皆の励みになる」とエールを送った。
 「また来てくれたね。ありがとう」「いつも楽しみにしているから」―。菊地さんは売り場で、次々と来る常連客と言葉を交わした。「いつまでも泣いていたって仕方ない。支えてくれる人たちに恩返しの気持ちで続けなくちゃ」(社会部・白柳一樹)
 

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