再審待つ袴田さん、85歳に 姉の秀子さん「明るくなった」

 旧清水市(静岡市清水区)で1966年に一家4人を殺害したとして死刑が確定し、裁判のやり直し(再審)を求めている袴田巌さん(85)=浜松市中区=が10日、85歳の誕生日を迎え、姉の秀子さん(88)と暮らす浜松市中区の自宅で支援者から祝福を受けた。最高裁が2020年12月に再審開始を認めなかった東京高裁決定を取り消し、審理を高裁に差し戻す決定をして以降、袴田さんの様子に変化が表れている。

花束を受け取り、ほほえむ袴田巌さん(手前右)。後列左は姉の秀子さん=10日、浜松市中区
花束を受け取り、ほほえむ袴田巌さん(手前右)。後列左は姉の秀子さん=10日、浜松市中区

 袴田さんは街歩きを日課にしてきたが、最高裁の決定後は車で物見遊山に出掛けることが増えた。1月中旬からの1カ月間だけでも計17日に上る。「世間の声が『頑張ってね』から『良かったね』に変わったことに、うんと反応している」と秀子さん。「巌は明るくなってきた。せめて健康で長生きさせたい」と言葉に力を込めた。

 ■「袴田事件」巡り 近大生がリポート
 袴田さんの事件を巡り、近畿大の学生団体「近畿大学イノセンス・プロジェクト・ジャパン」が10日、研究リポートを団体のネットで公開した。現行の再審法制を「著しく不十分」などと指摘している。
 タイトルは「袴田事件から分かる刑事手続の諸問題」。文献を集めたり、袴田さんや姉の秀子さん(88)、弁護団の小川秀世事務局長や支援者を訪問したりして、学生7人で10カ月ほど掛けて60ページのリポートに仕上げた。
 8章構成。裁判になじみの薄い人にも分かりやすいよう刑事手続きの流れを説明するところから始めた。「なるべく法律的な言葉を使わず、グラフや写真を多く用いた」と石橋健吾代表(21)=法学部3年=。袴田事件の概要や再審請求の経過をたどり、刑事手続きの問題点を検討した。
 再審請求手続きについては、証拠開示の具体的な制度がないため裁判官の姿勢次第で対応に格差が生じる恐れを強調。「全証拠の開示は真実の発見や基本的人権の保障といった刑事手続きの目的から考えても必要不可欠」とまとめた。早期に整備すべき項目として▽証拠開示制度の新設▽検察官による不服申し立ての禁止▽再審請求手続きの原則公開―の3点を提言している。
 学生たちは研究を進めるうち、袴田さんの犯人性への疑問が強まっていったという。刑事訴訟法には再審に関する規定は19カ条しかない。石橋さんは「刑事司法の問題について声を上げ、行動に移すことで改善につなげていきたい。多くの人にリポートを読んでもらえれば」と期待する。
 小川事務局長はリポートについて「多くの資料を網羅した力作。内容も本質を捉えている」と評価した。(社会部・佐藤章弘)

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