築100年超母屋改修 浜松の製油所、異業種協業「成長」に知恵

 1872年(明治5)年に創業し、食用油を製造販売してきた「村松製油所」(浜松市西区湖東町)が築100年超の母屋を大規模改修し、飲食中心の地域振興事業に参入する。同じく新型コロナウイルス禍で苦境に立たされている市内の飲食店などと協業し、自慢のごま油や地場産品を使った本格料理を提供する。レトロ感あふれる昭和初期のねじ式圧搾機などは観光資源として活用し、収束後の生き残りと成長につなげる。

母屋の大規模改修に向け知恵を出し合う木下伸弥工場長(左から2人目)ら。異業種で協力し、コロナ禍の苦境をチャンスに変える考えだ=2月中旬、浜松市西区の村松製油所
母屋の大規模改修に向け知恵を出し合う木下伸弥工場長(左から2人目)ら。異業種で協力し、コロナ禍の苦境をチャンスに変える考えだ=2月中旬、浜松市西区の村松製油所

 「母屋の雰囲気と扉の風情は残そう」「メニューにフライドポテトは欠かせない」「みんなが共通で持つのがスピード感。大企業にまねできない“遊び”のある挑戦にしよう」
 2月中旬。若手経営者ら4人が母屋でアイデアを出し合った。コロナ禍で小売りや委託加工が激減した同製油所。木下伸弥工場長(41)の「将来への投資を考えなければ」との思いに賛同し、集まったのが中区のワイン&ジャパニーズグリル「フジタ」の藤田隼介オーナー(40)、同区の汁なし担々麺「ラボラトリー」の今村哲郎代表(36)、北区の住宅建設・リフォーム「Wish(ウィッシュ)」の杉山真聖社長(26)だ。
 ウィッシュの改修で油工房を創設し、オリーブなどごま以外の多用な種から絞った油の商品化に挑む。児童向け体験教室を定期開催し、四季折々の催しも企画。5月のプレオープンを目指す新たな飲食スペースでは、藤田オーナーが手掛ける三ケ日牛の自家製ローストビーフやサツマイモスティックなどを持ち帰り可で提供する。
 中心街で夜だけ開店し、売り上げ減に直面している藤田オーナーは昼営業や郊外出店も計画中だった。消費者の動向は「コロナ前のようには戻らないのでは」との危機感を強める。東名高速道に近い立地に着目し、ハーブ畑などを加えた名所に育てる青写真も描く。
 食を通じた研究や地域支援を続ける今村代表も「口にする人に全過程を伝えるのが理想」と油の魅力を生かした商品開発で貢献する。イベント実績が豊富な杉山社長は「歴史は強み。道の駅のような存在に発展できるのでは」と協力を誓う。

 <メモ>村松製油所は創業以来食用油の製造販売を続け、国策で鉄が必要だった太平洋戦争中は搾油機などを接収された。工場近くの航空自衛隊浜松基地は当時、旧日本陸軍の飛行学校だったとされる。戦後の1950年に九州で手に入れたねじ式圧搾機「連続搾油機」は今も工場を支えるが、老朽化が進み修理は手作業。稼働中は従業員が常駐し、つまりを防ぐ作業が欠かせない。同製油所によると、現存する同規模の製油所は静岡県内唯一という。

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