土葬「不足」「高額」…ムスリムの墓地新設模索 静岡の団体、宗教法人格取得

 日本で暮らすイスラム教徒(ムスリム)が増える中、ムスリム専用墓地の新設を目指して、静岡ムスリム協会(静岡市)が宗教法人格を取得した。ムスリムは宗教上の理由で火葬ではなく土葬をするが、専用墓地は全国的にも少ない。関係者は「多文化共生の時代。墓地の多様性についても社会の中で考えてほしい」と望んでいる。
 「今のままでは遺体の行き場は限られ、困ってしまう」-。静岡ムスリム協会のアサディみわ事務局長は懸念を隠さない。
 協会は2019年11月、静岡市の条例で墓地の運営が可能となる宗教法人の認証を受けた。もともと必要性を感じていたが、新型コロナウイルスの世界的な流行で危機感が増した。市内にはムスリムの遺体を土葬できる民間の墓地があるが、みわさんは「多くのムスリムにとって高額。残された人の負担にならないよう、より費用がかからない墓地を運営したい」と説明する。
 市の条例は、墓地の設置場所を▽飲料水を汚染する恐れがないと認められる場所▽地滑り、出水など災害の恐れの少ない場所-と定める。協会は市内の山中に候補地を見つけたが、河川などに近いことを理由に市から難色を示されたという。ただ、水源から離れるべき距離といった具体的な基準はあいまいだ。
 みわさんは、国が施策として外国人労働者の受け入れを広げてきたことも踏まえ、墓地の不足を「ムスリムだけの問題ではない」と指摘。既存の規則を早急に見直したり、国が指針をまとめたりする必要性を訴えている。

 ■「専用」は全国で10カ所程度
 日本イスラーム文化センター(東京都)などによると、ムスリムの遺体を土葬する専用墓地は全国でも10カ所程度しかないという。
 大分県の別府ムスリム協会は、水源地や民家から離れた同県日出町の山中に土地を購入し、九州に一つもない専用墓地の新設を計画している。土葬可能な近隣のキリスト教墓地に埋葬してきたが、空きスペースはわずか。日本国籍を取得したパキスタン出身のカーン・ムハマド・タヒル代表は「墓地を造るしか方法がなく、どうしても必要」と切望する。
 住民説明会を重ねているが、環境への影響を不安視する意見があり、町長も町議会6月定例会で「地元と十分協議するように」と答弁。カーン代表は、住民の理解を得られる努力を今後も根気よく続けていく考えを示す。
 同センターのクレイシ・ハールーン事務局長は「東北や四国にも専用墓地はない。遺体を母国へ空輸するにも100万円以上はかかる。もっと地方に墓地ができれば」と話す。

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