テーマ : サクラエビ異変

市場の「裏側」 富山・シロエビ漁に見る(4・完)あえぐ「宝石」の未来、消費者軽視で再興なし

 高すぎたゆえに顧客離れが進み“サクラエビバブル”の崩壊をもたらした2010年春漁では、1ケース(15キロ)の平均価格は6万5千円だった。底を打った相場は約5年後に6万円程度にまで再高騰。過去最悪の不漁に陥っている最近は10万円前後と、まさに“法外”な値段で競り落とされている。

競りで入札する仲買人。取引価格は乱高下を繰り返し、駿河湾産サクラエビのマーケットは縮小してきた=2019年11月、静岡市清水区の由比漁港
競りで入札する仲買人。取引価格は乱高下を繰り返し、駿河湾産サクラエビのマーケットは縮小してきた=2019年11月、静岡市清水区の由比漁港
駿河湾産サクラエビ 取引価格の推移
駿河湾産サクラエビ 取引価格の推移
競りで入札する仲買人。取引価格は乱高下を繰り返し、駿河湾産サクラエビのマーケットは縮小してきた=2019年11月、静岡市清水区の由比漁港
駿河湾産サクラエビ 取引価格の推移

 「価格の安定が一番」。とやま市漁協の道井秀樹組合長(58)は強調する。自身もシロエビ漁に従事する富山市岩瀬地区では、漁師と加工業者が事前に一定期間の売買価格を決める相対取引を採用。加工業者は販売計画を立てやすく、小売業や外食店も取り扱いやすくなる長所がある。
 道井組合長によると、競りでシロエビを取引する富山県新湊地区では、サクラエビと同様、一部仲買人の思惑で落札価格が異常に高くなった過去があるという。とはいえ、新湊の複数の親方も「漁獲を調整して適正価格に安定させたい」との意思を持っている。
 繰り返される乱高下でマーケットが縮小してきたサクラエビ。複数の地元加工業者は適正価格を1ケース3万円台と認識するが、これまで多くの場合で適正な価格帯より高値で取引されてきた。東京・豊洲市場の卸売業者、東都水産の担当者は「サクラエビは値段の変動が激しく、近寄りがたい」とする一方、「流通量は多くないが、価格が安定している印象」とシロエビを評価する。
 静岡市清水区の複数の漁業関係者は「駿河湾産の相場が適正水準に下落し台湾産が売りにくくなると、一部仲買人が相場を高値に誘導してきた」と相場変動の一因を話す。過去に買った在庫のエビの価値を高くするために相場を上げる投機的な行為もあったといい、「利益のためのマネーゲームに興じてきた」と厳しい目を向ける。
 サクラエビは駿河湾が国内唯一の漁場で、台湾を除き産地はほかにない。産地間競争がない“独占”状態にあることが、消費者視点が欠如する要因との指摘がある。適正価格でしか入札しないと決めている仲買人の一人は「競争がない環境にあぐらをかき、手頃な値段で消費者に届ける意識がない」とみる。
 台湾産の流通増を防いだシロエビ業界も、2010年代半ばの高騰により縮小したマーケットを取り戻せずにいる。需要回復はサクラエビ業界とも共通する課題だ。駿河湾と富山湾の“宝石”の未来に思いをはせ、道井組合長は断言する。「漁師や加工屋の利益欲求に応じて漁をしてはいけない。消費者を軽視している産業に将来はない」

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