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海は誰のものか(3)エビ籠漁とIQ制 黒字化や規制改革実現

 2011年に国内で初めて個別漁獲割当(IQ)制のモデル事業を始めた新潟県赤泊地区のホッコクアカエビ漁。IQ制はことし施行する改正漁業法でも、次世代の資源管理手法としてさまざまな魚種に拡大することをうたっている水産改革の“本命”だ。

個別漁獲割当(IQ)制のイメージ
個別漁獲割当(IQ)制のイメージ
IQモデル事業期間中の赤泊地区の7、8月期漁獲量と漁獲金額の推移
IQモデル事業期間中の赤泊地区の7、8月期漁獲量と漁獲金額の推移
水揚げされたホッコクアカエビ。「南蛮エビ」とも呼ばれ、新潟県内を中心に出荷される=6月上旬、同県佐渡市の赤泊港
水揚げされたホッコクアカエビ。「南蛮エビ」とも呼ばれ、新潟県内を中心に出荷される=6月上旬、同県佐渡市の赤泊港
個別漁獲割当(IQ)制のイメージ
IQモデル事業期間中の赤泊地区の7、8月期漁獲量と漁獲金額の推移
水揚げされたホッコクアカエビ。「南蛮エビ」とも呼ばれ、新潟県内を中心に出荷される=6月上旬、同県佐渡市の赤泊港

 進めたのは改革派の論客として知られ、水産庁を退き、当時政策研究大学院大に転じていた小松正之氏(66)。同県の「新資源管理制度導入検討委員会」の委員長として導入を推進、12~18年は県参与も務めた。「禁漁期の操業解禁や減船といった改革が実行できた。IQがその下支えになった」と胸を張る。
 佐渡市南部に位置する赤泊地区。本州と佐渡島の間、佐渡海峡を漁場に1960年代から続く「エビ籠漁」でホッコクアカエビを漁獲している。県水産課によると、佐渡海峡のホッコクアカエビは海峡外に出ることが少なくIQに必要な資源評価のための基礎データがあったことや、他の漁との競合がなかったことなどから選ばれた。
 事業は2011年から16年まで。直近5年間の漁獲量の最大値と最小値を除いた3年平均の98%を漁獲上限を決める漁獲可能量(TAC)に設定。四つの経営体(13年から三経営体)の漁獲実績を考慮しIQを配分した。
 事業期間中、県えび籠漁業協会会長を務めた中川定雄さん(78)は「IQを始めてから無理して出漁しなくなった。それでも収入は段々上向いて経営は黒字化、乗組員は社会保険や共済年金に加入できるようになった」と生活環境の変化を実感する。
 IQで漁獲上限が決まったことが“担保”となり、赤泊地区では規制改革が次々と実施。禁漁期間だった7月1日~8月31日の操業が解禁されたことはその代表例だ。
 慣習的に禁漁期となっていた同時期は観光シーズンで高い需要が見込まれた。同課によると、夏季操業を解禁した12年以降、7、8月期の単価は右肩上がりで、15年には平均単価が2379円(1キロ当たり)と両月以外の月の平均単価の約1・5倍に。担当者は「IQが設定されると漁獲金額を最大化するために価格の高い時期に大型のエビを漁獲するようになる。その成果が出た」と分析する。
 経費削減にも着手。導入前まで船ごとに上限が決まっていた籠数を経営体ごとに変更し、2隻分の籠を1隻に集約。全体の籠数を減らさずに6隻あった船を半減することに成功した。「数十万から数百万かかっていた漁船保険や整備費などの経費が削減できた」と、中川元会長の弟で漁船「第五星丸」の中川鈞二船長(74)は減船の成果を語った。
 赤泊地区のIQ導入は「資源管理型漁業の成功例」(中川元会長)。ただ、中川元会長は「IQが成功したのは漁に従事する船が元々少なかったこと、漁場が限られ競合相手がいなかったことが大きい」と指摘する。

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