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減船を考える(1)120隻のまま半世紀 聖域化、言及避ける県

 駿河湾サクラエビ漁において半世紀にわたり変わらない船数を減らすことは、これまで関係者が長年棚上げにし続けてきた難問だ。個人の財産権に密接に結び付いた問題であるうえ、水揚げ金額を均等割りする「プール制」を湾全体で敷く漁師たちにとって、船の所有はすなわち生活の糧を意味する。一方で、過剰な船数は資源の取り過ぎを引き起こしかねない。関係者が「アンタッチャブル(触れるべからず)」とも指摘する減船の問題を、いまこそ考える。

4月下旬の静岡海区漁業調整委員会の会合。減船は議題には上がらなかった=県庁
4月下旬の静岡海区漁業調整委員会の会合。減船は議題には上がらなかった=県庁
4月下旬の静岡海区漁業調整委員会の会合。減船は議題には上がらなかった=県庁

 「120」-。記録的な不漁に陥っている駿河湾サクラエビ漁の漁船数だ。ここ数年は深刻度が増し、「取れない」というイメージが定着。水揚げ低迷は2010年ごろから続き、資源量が低水準にあることは長らく指摘されてきた。だが、漁の根幹とも言える船数が適正かどうかはほとんど議論されていない。いわば聖域と化している。
 120隻の船数は静岡県知事の許可によるものだ。制度上、知事は県水産・海洋局が事務局の「静岡海区漁業調整委員会」の意見を踏まえ、3年に1回見直す機会が定められている。ただ、静岡新聞社が県に情報公開請求して入手した委員会の議事録によると、少なくとも12年度の許可更新時以来、一度も議題にすら上がっていない。また、同局内では積極的な議題化はされていない。
 サクラエビ漁に長年従事し、県桜えび漁業組合幹部などを歴任した由比港漁協(静岡市清水区)の宮原淳一組合長(79)は、15年度の許可更新時から、委員会の会長を務めている。委員会での減船の議論に関し「現場の漁業者側から提案しない限り、議題になることはまずない」と話す。
 とはいえ、どの漁業もサクラエビのように県が定める漁船定数が“半永久的”に維持されているわけではない。議事録によれば12、15、18年度の更新で「しらす・いわし船びき網漁業」は272から246に、「さより2そう船びき網漁業」は162から138にまで定数が減少した。
 県水産資源課の担当者は「定数減は廃業による場合がほとんど」と説明。資源保護を目的として県が積極的に減船を主導した例はほとんどないとみられ、サクラエビ漁の減船の必要性については「難しい問題であり、コメントできない」と言及を避けた。一方で、県外では新潟県のホッコクアカエビ漁における「IQ方式(個別割当方式)」導入など、行政と連携して資源管理を推進し、減船を実現させた地域がある。
 「さくらえび漁業百年史」(静岡新聞社)によると、120という定数が定着したのは1960年代とみられる。慶応大経済学部の大沼あゆみ教授(60)は、この定数は「かつての資源状態や船の性能に適応した数」だとして、「適正化すればコストが下がって利益が上がり、漁業者の所得が増える」とメリットも主張する。
 ことし中に施行される予定の改正漁業法では、資源管理に対する都道府県の責務が総則に明文化された。水産庁の担当者は「都道府県がこれまで以上に重要な立場に置かれる」と説明。大沼教授は「漁を維持していくのに減船が必要不可欠であることを県もきちんと認識し、これを契機に関わりを強めるべき」と訴える。

 <メモ>新潟県のホッコクアカエビ漁 「甘エビ」や「南蛮エビ」とも呼ばれる甲殻類のエビ籠漁業。2011年から県が主導し、総漁獲可能量のうち、それぞれの漁業者に設定された漁獲量を割り当てるIQ方式による資源管理をモデル事業として実施。漁業者は過剰な船を集約し、乱獲が回避されたことから資源保護にもつながったとされる。地元関係者によると、かつて10隻だった漁船は現在半分以下に減り、コスト削減で収入安定にも貢献したという。

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