川は誰のものか(1)山を守る海の漁師 水利権は「既得権益」か

 駿河湾産サクラエビの不漁を契機に注目される富士川の環境を語る上で欠かせないのが、日本軽金属の水力発電所が持つ巨大水利権だ。蒲原製造所(静岡市清水区)の放水路から海には最大毎秒75トンの濁水が注ぎ「河口が二つある」とも形容される。全てが戦争に向けられていた時代に国から許可され、いまも続く河川利用のあるべき姿を検証する。

間伐に適したヒノキを探す林業家の佐野文洋さん。サクラエビ漁師の顔も持つ=3月上旬、富士宮市内
間伐に適したヒノキを探す林業家の佐野文洋さん。サクラエビ漁師の顔も持つ=3月上旬、富士宮市内
導水管、火力発電所
導水管、火力発電所
間伐に適したヒノキを探す林業家の佐野文洋さん。サクラエビ漁師の顔も持つ=3月上旬、富士宮市内
導水管、火力発電所

 「ドーン」。3月上旬、霧が立ち込める富士宮市内のヒノキ林。5代続く林業家佐野文洋さん(47)=静岡市清水区由比=がチェーンソーとおのを振るうと、数分で樹齢80年の大木がミシミシと音を立てて大地に横倒しになった。
 「広葉樹を植える人もいるが間伐で地面に日光が届くようになれば、植生は自然と豊かになる。駿河湾に栄養豊かな水が送れる。土砂崩れのリスクが減る」
 日焼けした笑顔にがっちりとした体格。サクラエビ漁船「諏訪丸」の船長でもある。10~20代はプロのウインドサーファーとしてカリブ海など世界を転戦。林業や漁の傍ら、20代後半からは修学旅行生らを対象に富士川を下るラフティングの自然体験ツアーなども提供、多彩な顔を持つ。
 山と海の連環に深い思いを抱くようになった原点は2003年春漁。31歳で初めて出漁した際、昨年11月に事故で亡くなった父博さんが発した言葉だ。
 当時まだ資源が湾奥にあり、港から出て約20分で15キロの箱に300杯が取れ、1杯3万5千円の値が付いた。「文洋、見ろ。60年かけてお父さんが育てたヒノキの1立方メートルの値段とエビ1杯が同じ値段なんだ」。いまも胸には刻まれ、「サクラエビは種を植えて育てているわけではない。だからこそ自然に謙虚にならなければ」。そう感じている。
 政治には疎かった佐野さんが民主党政権の羽田雄一郎国土交通相(当時)宛に、A4用紙1枚の要望書を初めて送ったのは12年6月。
 「発電のため富士川の水が大量取水され河川流量が著しく減量している。水は富士川に環流されることなく駿河湾に直接放流され中下流部の流量に影響を与えている」
 取水の減量などを求め決死の思いだったが返答はなく、地元の国会議員や県議らとの間で話題にしようとしても「水の話は昔から血が流れるっていうから…」と敬遠され続け、あきらめかけていた。
 しかし、サクラエビ不漁を契機に富士川に注目が集まるいまこそ日軽金の水利権に再び声を上げるべきと考えている。「富士川の水を血液に例えるなら、こんな血圧の低い川がまともな機能を果たせるわけがない。新幹線から他県の川を見ても、ここまで水が少ない1級河川はないのでは」と話す。
 17年5月26日、富士市の県富士総合庁舎で開かれた、県が農業用取水のために設置した四ケ郷せき魚道評価委員会。傍聴していた佐野さんは、当時委員だった国交省関係者に「税金を何億円もかけてアユの魚道を直すくらいなら、日軽金から水を戻してもらえばいいのでは」と率直な疑問をぶつけた。
 「そうは言っても既得権益をいきなり召し上げられるかというとそういう話にはならない」。関係者が回答する音声はiPhone(アイフォーン)のボイスメモにいまも残る。「戦前から続く水利権を『既得権益』とはっきり言い切る態度にはがっかりさせられた」と振り返る。
     ◇
 サクラエビにとって「母なる川」の富士川は果たして誰のものなのか、考える。

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