「取り過ぎ説」の裏側(11・完)宵売りブランド化 期待

 漁からいち早く帰港した船がピチピチと跳ねるサクラエビを届け、受け取った加工業者は足早に工場に運び入れる。鮮度を最大限に生かすため、翌朝の競りを待たず夜に取引する「宵売り」。資源が低迷し、台湾産の存在感が市場で増す中、駿河湾産のブランド力を高める方法として期待の声が出ている。

販売方法による鮮度の違い
販売方法による鮮度の違い
帰港直後に水揚げされる鮮度抜群のサクラエビ。駿河湾産のブランド力向上に向け、夜間に取引する「宵売り」に期待する声が上がっている=2017年12月、静岡市清水区の由比漁港
帰港直後に水揚げされる鮮度抜群のサクラエビ。駿河湾産のブランド力向上に向け、夜間に取引する「宵売り」に期待する声が上がっている=2017年12月、静岡市清水区の由比漁港
販売方法による鮮度の違い
帰港直後に水揚げされる鮮度抜群のサクラエビ。駿河湾産のブランド力向上に向け、夜間に取引する「宵売り」に期待する声が上がっている=2017年12月、静岡市清水区の由比漁港

 関係者によると、宵売りは2013年春漁から本格的に行うようになった。背景にあったのは台湾産の流通増。当時は“エビバブル”が崩壊して台湾産がマーケットに大量に流入した時期。「高品質のエビを高値で売ろう」と、漁師と加工業者の思惑が一致した。
 記録的不漁に陥ってから、宵売りは中断。駿河湾産の販売にこだわり続け、積極的に宵売りに参加したカネシチ大石商店=19年廃業=の大石一芳元社長(73)は「宵売りのエビを求める客は多かった。資源が低迷しているなら、なおさら台湾産との差別化を図る意味で再開するべき」と言葉に力を込める。
 駿河湾産の高鮮度を前面に押し出すため、競りを夜に実施する必要性を訴える声も。現状では、競りは漁の翌朝5時45分に始まるため、それまでの約10時間は漁港の冷蔵庫で保管している。東京海洋大の大森信名誉教授(81)=海洋生態学=は「朝まで待つ必要はない」と断言。魚体の小さいサクラエビは劣化するスピードがほかのエビ類より特に早いと言い、「台湾産の品質は向上している。駿河湾産も努力をしなければ」と警鐘を鳴らす。
 由比港漁協(静岡市清水区)の宮原淳一組合長(78)も「本来なら競りは夜にやるのが一番。冷蔵庫などの設備経費もかからないので助かる。次世代に提言したい」と賛同する。
 ただ、夜への移行には賛否がある。家族経営が多い中小の加工業者に比べ、多くの従業員を抱える業者は人件費の問題に直面する。約10人の従業員がいる同区蒲原の加工業者は「早朝からエビを干す作業をするので、夜も働くとなると労働時間が増える」と難色を示す。
 記録的不漁と需要減で不透明感が増す駿河湾のサクラエビ漁。大森名誉教授は冷凍船の導入による船上での冷凍や、鮮度の高さや駿河湾産であることが末端消費者に伝わるような流通、表示方法などを挙げ、「まだやれることはある。漁師と加工屋を別々に考える時代ではない。サクラエビを自分たちの宝として残すのを義務と考える人がいれば、漁業は守れる」と訴える。

 <メモ>宵売り 午後9時ごろ、漁から最初に帰港した漁船が積んだサクラエビを売買する。参加できるのは事前に予約した加工業者のみ。翌朝の競りで、各船の高値の平均価格に1500円を上乗せした金額を支払う。夜間の取引後でも作業ができる家族経営が多い中小規模の業者の参加が目立つ。エビの鮮度が高く、生サクラエビの商品として売り出されることが多い。

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