テーマ : サクラエビ異変

「取り過ぎ説」の裏側(2)価格調整 漁師、取らない選択も

 2010年秋漁、競り場にいた関係者に衝撃が走った。約10年間にわたり価格が上がり続けた駿河湾産サクラエビの暴落が始まった。同年春漁で1ケース(15キロ)当たり6万6千円だった平均単価。翌11年秋漁には2万5千円にまで急落。まさに関係者の言う“エビバブル崩壊”。由比港漁協(静岡市清水区)の宮原淳一組合長は「不安だった。ここまで下がるとは想像できなかった」と振り返る。

駿河湾サクラエビ漁 水揚げ量と平均単価の推移/駿河湾サクラエビの需要低迷の一要因
駿河湾サクラエビ漁 水揚げ量と平均単価の推移/駿河湾サクラエビの需要低迷の一要因

 メディア露出が増えるなどして順調に需要を伸ばした2000年代。09年は水揚げが低調だったこともあり、“狂乱相場”に拍車がかかった。あまりの高値で需要が一気に減り、暴落を招いた。宮原組合長は声を絞り出すように言う。「バブル崩壊以降、駿河湾産の需要は回復していない」
 バブル崩壊とともに、水揚げが安定し安価の台湾産サクラエビがマーケットに大量に流入。駿河湾産の仲買権を持つ加工業者のほとんどは、台湾産も取り扱う。顧客との取引が次々と台湾産に切り替わっていった。
 需要が回復する間もなく、駿河湾産の価格は再び高騰を始める。14年秋には5万7千円まで上昇。由比の加工業者の一人は「ここでとどめを刺された」。価格が乱高下する駿河湾産に顧客が愛想を尽かし、需要がさらに落ち込んだ。
 日々の目標漁獲高は、船元らでつくる出漁対策委員会が資源状況や需要動向を考慮して決定する。需要が弱ければ、価格下落を防ぐため水揚げを抑える。地元関係者は「資源枯渇で『取れない』とされる一方、需要減で『取らない』側面もある」と指摘する。
 複数の加工業者が心に秘めている思いがある。「台湾産でもうけるために、一部の大手加工屋が価格をつりあげているのでは」。台湾産は、駿河湾産との価格差が大きいほど販売しやすい。台湾産を多く販売する一部業者が駿河湾産の価格を意図的に上昇させ、需要減退を招いているという見方だ。
 価格調整の背景として、加工業者と漁師サイドの“癒着”を指摘する声も。ある加工業者は「一部加工屋と対策委はつうかあの仲だった」と指摘する。これまでの取材に「台湾を多く輸入したから取ってこないでくれと言われた」と明かした対策委員もいる。
 18年からの記録的不漁と価格暴騰で、多くの加工業者は「駿河湾産の消費はほぼなくなってしまった」とみる。資源保護と同時に、需要回復の取り組みも急務。宮原組合長は「資源が回復したとしても、このままでは(買い手が付かないため)取ろうにも取れない可能性がある」と懸念する。

いい茶0

サクラエビ異変の記事一覧

他の追っかけを読む
地域再生大賞