駿河湾の卵、相模湾へ? 黒潮大蛇行で流出か

 謎に包まれた相模湾のサクラエビの生態―。サクラエビ研究で知られる大森信・東京海洋大名誉教授は酒匂川河口(神奈川県小田原市)などでの固有種の生息をたびたび指摘してきた。しかし、本格的な研究はこれから。近年続く黒潮大蛇行により駿河湾から卵などが運ばれたとの説もある。

小田原沖にサクラエビの卵などが運ばれるイメージ
小田原沖にサクラエビの卵などが運ばれるイメージ

 黒潮は通常、駿河湾から数百キロ沖合を流れる。大蛇行が始まり、駿河湾沖から伊豆大島の西岸を通り、三浦半島沖に入り込むようになったのは2017年8月。この年、小田原港では14年以降で最高の600キロ近いサクラエビが水揚げされた。
 「相模湾サクラエビは黒潮大蛇行が関係している」。静岡大のカサレト・ベアトリス教授(海洋生物学)や江の島沖が研究フィールドの日本大の荒功一教授(プランクトン学)はこう仮説を唱える。
 カサレト教授は水深千メートルを超え、駿河湾などと並び「日本三大深湾」とされる相模湾や、富士山麓が源流の酒匂川などの周辺環境を挙げ「小田原沖は駿河湾から運ばれたサクラエビの幼生が成長できる可能性がある」と解説。荒教授も「小田原沖は駿河湾と環境が似ている」とした。
 こうした説に、海洋研究開発機構(JAMSTEC)でWEBコラム「黒潮親潮ウォッチ」を担当する美山透主任研究員=富士市在住=は「近年の黒潮の流れを分析すると矛盾はない」と指摘。三浦半島にぶつかった黒潮は相模湾で反時計回りの海流となり、御前崎沖から小田原沖までは数日でたどり着くという。
 駿河湾では本来の産卵場の湾奥で卵が少ない状況が続き、湾外に流出しやすい大井川沖で卵が出現する異変が続くこととの関係性も研究課題で、大森名誉教授は著書などで「不漁克服のためには餌の植物プランクトンが多い初夏、駿河湾奥の卵数を増やすことがあらゆる側面から重要」と強調している。

 ■「ライバルになる可能性」 静岡県関係者、情報収集へ
 神奈川県の相模湾で近年、サクラエビの水揚げが続いていることに、本県関係者は14日までに、「市場が拡大すれば駿河湾産のライバルになる可能性がある」と危機感をあらわにした。
 秋漁でも記録的不漁が解消されない駿河湾サクラエビ漁。県桜えび漁業組合の実石正則組合長は「定置網に引っかかることは知っていた」とした上で、相模湾での水揚げ量や漁場など情報収集が必要との認識を示した。
 相模湾のサクラエビは漁業として成立するほどではないと静観されてきた。県内加工業者でつくる県桜海老加工組合連合会の高柳昌彦会長は「品質が良く、今後数量が増えて『相模湾産ブランド』として流通すれば無視できなくなる。県内の加工業者も買い付けを行うのか、ライバルとして対抗するのか考えなければ」と話した。

いい茶0
あなたの静岡新聞 アプリ
地域再生大賞