サクラエビ春漁直前インタビュー 漁師/加工業者/研究者

 史上初めて2018年の秋漁を断念するなど、記録的な不漁にさらされている駿河湾のサクラエビ。24日の春漁解禁を前に、関係者は資源保護と出漁のはざまで揺れている。「駿河湾の宝石」が食卓に上り続けるにはどうあるべきか。由比港桜えび漁業組合青壮年部長の宮原吉章さん、蒲原桜海老商業協同組合青年部長の望月保宏さん、「プール制の父」とも呼ばれるサクラエビ研究の第一人者、東京海洋大名誉教授の大森信さんに聞いた。(「サクラエビ異変」取材班)

漁師 宮原吉章さん
漁師 宮原吉章さん
加工業者 望月保宏さん
加工業者 望月保宏さん
研究者 大森信さん
研究者 大森信さん
漁師 宮原吉章さん
加工業者 望月保宏さん
研究者 大森信さん


  ■産卵保護へ 見直す必要 由比港桜えび漁業組合青壮年部長 漁師 宮原吉章さん
 -春漁の自主規制をどう受け止めたか。
  「親エビが春以降に産卵しなければ資源量は増えない。産卵前の親エビ『頭黒』の保護は不可欠。産卵場とされる湾奥は例年、春漁の主な漁場となってきた。漁獲を得たい漁師にとっては非常に厳しい判断だが、資源回復の面では有効な手段。昨年春ほど取るわけにいかない。漁獲量の上限目安設定も納得できた。昨年秋にも行った操業の隻数や時間の制限の継続は当然だ」
  -今後の春漁はどうあるべきと思うか。
  「体の大きなエビが取れることもあり、これまでは毎年、秋漁に比べて春漁の漁獲が多かった。ただ、春漁は産卵前のエビが主な漁獲対象。資源はすぐに回復するものではない。資源回復のためには今後、春主体の漁のあり方を一度見直す必要があるかもしれない」
  -プール制を見直すべきという意見についてはどう思うか。
  「漁師が好き放題取っていたらサクラエビは枯渇する。プール制があったからこそ今、漁ができている。過去には漁獲が4千トン以上の年もあった。近年は毎年千トン前後。それで今『取り過ぎ』と指摘されるのは心苦しい。それでも、資源量が減少しているのは事実。新たな対策が必要なのは間違いない」
  -具体的には。
  「サンマなど他の魚種では、漁獲量の上限を決める漁獲可能量(TAC)制度が導入されている。総資源量が不明なので具体的な数字を挙げにくいが、サクラエビでも漁獲規制は模索していくべき。減船も頭の痛い問題。漁師は漁船に一軒家以上の資本をかけている。急には減らせないだろうが、長い目で見たら考えていくべき課題だと思う」
  -駿河湾の環境を守るために何をするか。
  「山や川から湾に流れ込む養分がエビを育てると言われている。これまでも富士川河口の清掃に取り組んできた。今後は植樹なども考えたい。不漁を受けて昨年の春漁期中、青壮年部のメンバーから研究者に依頼し、資源状況の講義を受けた。みんな肌感覚で漁の異変をうすうす感じていたが、改めて意識を高める良いきっかけになった。若い漁師は特に環境への意識が高い。資源保護の共通認識を持つために、海洋環境や資源状況を勉強する機会を増やしたい」

  ■管理で恩恵 仕組み探る 蒲原桜海老商業協同組合青年部長 加工業者 望月保宏さん
 -春漁への期待は。
  「加工業者の中には『少しでも取ってほしい』『中途半端に取るくらいなら資源保護のために禁漁すべき』など、多様な意見がある。ただ、サクラエビ産業の継続が第一との思いはみんな同じ。昨年秋に比べ同業者の間でも、産卵を控えた親エビ保護をはじめとした漁の規制への理解は広がっていると感じる」
  -資源管理はこの先、どうあるべきか。
  「資源の総量やサクラエビの生態に不明な点が多く、科学的にベストな方法が分からない。ただ、資源保護を目的に始まった水揚げ金額の均等割『プール制』の下で、近年の不漁に陥ったのは事実。実施するかどうかはともかく、漁獲の総量規制や漁期の見直しなど、駿河湾ではまだやったことがない対策について検討してみる価値はあると思う」
  -そのためには何が必要か。
  「過去には不漁で高値になり、加工品が売れ残ってしまった年もあった。需要と供給の予測は難しいが、資源管理しながら漁師にも加工業者にも恩恵がある仕組みを探りたい。昨年からの不漁を機に漁師、加工業者、学識者、行政が一堂に集う情報連絡会が開かれている。漁海況、市場動向、漁のあり方などについて、関係者が定期的に情報交換する場は今後も必要だと思う」
  -春漁も自主規制の方針。加工業者への今後の影響は。
  「スーパーや外食産業などとの商談は、数量面でも価格面でも安定的に商品供給できることが前提。現状では資源回復の見通しが立たず、商売の提案そのものができない。昨年秋以降、駿河湾産サクラエビの在庫が尽き、売り場が台湾産や他の海産物に取って代わられる事例も出始めている。他の商品の人気が高まると、たとえ今春以降に駿河湾産サクラエビの資源量が回復しても、売り場を取り戻せない恐れがある」
  -加工業者は今後、どうあるべきか。
  「中国をはじめ世界的な需要の増加により、台湾産サクラエビの価格は年々上がっている。日本人に比べて品質へのこだわりが強くなく、大量に仕入れる外国人バイヤーは手ごわい競争相手。サクラエビに限らず海産物全体で、需要増と資源減を背景に価格が高騰している。加工業者には、新商品開発などの経営のリスクマネジメントが必要だ」

  ■漁師組織で資源調査を 東京海洋大名誉教授 研究者 大森信さん
 ―春漁はどのように臨むべきと考えるか。
  「産卵場所となっている富士川沖の禁漁区設定や、2018年春漁の漁獲量の8割となる250トンの漁獲規制など漁師たちの自主規制には意味があると考える。春には『頭黒』と呼ばれる成熟卵を持つメス個体をなるべく残すような漁をすべきだ。資源回復には4、5年はかかるかもしれない。しかし、その間はそうした漁を続けなくてはならない」
  ―これらの自主規制で十分と言えるか。
  「過去にない自主規制を行ったことは評価するが、一層踏み込んだ改革が必要だ。私は漁師組織の県桜えび漁業組合の中に『資源調査部』を作ることを提案する。日々の操業方針を感覚的に判断している『出漁対策委員会』に対し、細かく資源状況を報告する、いわばストッパーとしての機能を持ってほしい。制度構築においては自分がアドバイスした『プール制』。その売り上げの5%でよいので、資源調査に回すべきだ」
  ―資源調査部設置の構想を具体的に教えてほしい。
  「まずは資源調査部に常勤の研究主任1人を置くべきだ。その上で、出漁しないサクラエビ漁船のうち数隻を試験調査船とする。資源状況のほか、産卵量の調査、産卵のピークがいつになっているかをまずは調査・研究対象にしてほしい」
  ―漁師自身が資源の状態を見極めることが重要なのか。
  「ミカンやコメ農家は栽培方法や品質管理を自分たちで熱心に行っている。自分たちの取っているものについて知ろうとしないという姿勢は疑問に感じる。一方で、自治体傘下の水産試験場などの研究施設では人不足などの影響で、全国的に研究レベルが下がっている。こうした現実を補ってほしい気持ちがある」
  ―県など行政機関への要望は。
  「静岡県ではサクラエビが重要な水産物であると位置付けられている。栄養塩やプランクトン、海水温について詳細に分析できる体制整備が必要だ。まずは資源量をきちんと把握できるようにすることが先決。その上で、台湾の政府が行っているように、一定の科学的根拠に基づいた『最大持続生産量(MSY)』を漁師たちに提示し、水揚げ量の参考にできるようにすべきではないか」

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