大井川直下「大量湧水」JRの説明資料 リスク低い「本坑」記載、国交省「誤解招く表現」【大井川とリニア】

 大井川直下でのリニア中央新幹線南アルプストンネル工事で「高圧大量湧水の発生が懸念される」と記載された地質調査会社の資料を巡り、JR東海が10月の国土交通省専門家会議に提出した自社の見解を説明する資料で、破砕帯など大量湧水のリスクが高い地質に先に到達する「先進坑」ではなく、その後掘り進める「本坑」について記載し、「大量湧水の可能性は小さい」と結論付けていたことが24日までに分かった。

JR東海が国土交通省専門家会議に示した見解の説明資料。県境付近断層帯は「先進坑」、大井川交差部は「本坑」と記した(青枠、赤枠は追記)
JR東海が国土交通省専門家会議に示した見解の説明資料。県境付近断層帯は「先進坑」、大井川交差部は「本坑」と記した(青枠、赤枠は追記)
先進坑と本坑の掘削イメージ図
先進坑と本坑の掘削イメージ図
JR東海が国土交通省専門家会議に示した見解の説明資料。県境付近断層帯は「先進坑」、大井川交差部は「本坑」と記した(青枠、赤枠は追記)
先進坑と本坑の掘削イメージ図

 JRは同じ説明資料で、山梨県境付近の大規模断層の大量湧水のリスクは「先進坑」と記載して論じ、大井川直下の「本坑」と区別した比較表を掲載。JRは他の箇所の説明で先進坑と本坑を区別して論じている。国交省は「誤解を招くような表現だ」として今後対応を検討するという。
 静岡新聞は9月、地質調査会社が作成した資料に、大井川直下で「高圧大量湧水の発生が懸念される」という記載があったと報道。JRは県からの資料公表要請を2度拒否した末、10月の専門家会議で地質調査会社の資料の一部を抜き出して、説明資料に「本坑と大井川の交差部における大量湧水の可能性は小さい」と記した。先進坑での大量湧水の可能性については見解を明示していない。
 県の担当者は大井川直下に関して「リスクの高い先進坑を国交省会議で議論すべきではないか」と問題視している。JRの広報担当者は取材に「(先進坑と本坑を)代表して『本坑』と書いた。『先進坑及び本坑』と書いてある箇所もあり、『本坑』には先進坑という意味も含まれている」と説明した。
 10月の専門家会議では大井川直下の地質に関する議論が深まらず、トンネル工学が専門の西村和夫委員(東京都立大理事)は一切発言しなかった。

 <メモ>先進坑と本坑 大量湧水の発生が懸念される長大な山岳トンネル工事では、地中の水を抜く役割を果たす小型の先進坑を先に掘り、地中の水を少なくしてから本坑を並行して掘り進める。先進坑の方が破砕帯などに遭遇して大量湧水が発生するリスクは高くなる。先進坑の掘削によって水が抜ければ本坑が掘りやすくなる。

 <解説>信用失墜する致命的説明
 南アルプストンネル工事による大井川流域への影響を考える上で非常に重要な大井川直下の大量湧水のリスク評価に関して「本坑」にのみ言及し、リスクがより高い「先進坑」について明記しなかったJR東海の説明は意図的か否かにかかわらず信用失墜につながる。不確実性が高いトンネル工事を担う事業者として致命的だ。
 JRは国土交通省専門家会議だけでなく、これまで県の有識者会議や県議会への説明でも、誤解を招く表現を繰り返してきた。誤解を招く情報は流域住民や首長の判断を誤らせかねない。
 工事中や工事後の監視体制を構築しても、元の情報が正しく共有されなければ機能しない。JRは県が求めた環境影響評価関連資料の公表に応じず、資料の一部を抜き出して説明している。不信感の払拭(ふっしょく)には流域住民に元のデータを示す必要がある。

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