効率と安全追求の陰で 環境保全技術これから【大井川とリニア 第4章 山岳トンネルの宿命④完】

 100年前、東海道線丹那トンネル(熱海―函南間)の掘削で大量の「水抜き」をしたことでもたらされた丹那盆地の水枯れ被害は、今も回復していない。大井川の水源を貫くリニア中央新幹線南アルプストンネルの工事で「水抜き」をした場合に、周辺環境の回復や流域の水環境の維持を可能にする工法はあるのか。

飛騨トンネルの最深部では水深600メートルと同じ高圧の湧水が噴き出した(「秘境を貫く飛騨トンネルの物語」より)
飛騨トンネルの最深部では水深600メートルと同じ高圧の湧水が噴き出した(「秘境を貫く飛騨トンネルの物語」より)

 環境に配慮したトンネル工法に詳しい岡山大の西山哲教授(地盤工学)は近年のトンネルの工事例を挙げ「止水工法などの特殊な対策を採用し、相当な問題意識を持った取り組みがなされている」と説明する。
 2016年に貫通した新名神高速道路箕面トンネル(大阪府)は、工事で川の水を引き込む懸念があった。そのため、工事中は河川水を仮設の水路に一時的に迂回(うかい)させ、工事後は周囲を防水シートで覆う非排水型トンネルを採用して地下水位の低下を抑えたという。
 ただ、地下深くを掘るトンネルには高い水圧がかかる。西山教授は「一般論で答えるのは難しい」としながらも、南アルプストンネルのような地下100メートルより深いトンネルに関し「非排水型トンネルは施工方法やコストから考えて現実的ではない」とし、地下水や地質構造を精度良く調べる方法を開発する必要性を指摘した。
 掘削で地中に新たな水の通り道ができ、トンネルの外側を伝うなどして水が県外に流出する可能性もある。JR東海は「かなり特殊な状況の話だ」とするが、浅岡顕名古屋大名誉教授(地盤工学)は地盤を固める薬液注入と呼ばれる工法で水の通り道を全てふさぐことは不可能だとし「どのように水が流れているか、トンネルが出来上がった後に調べるすべはない」と断じる。
 14年の環境影響評価書に対する国土交通大臣意見は「その時点での最新の技術を積極的に導入し、より一層の環境影響の低減に努めること」をJRに求めた。自然共生を担当する県くらし・環境部の田島章次理事は「リスクを減らす新しい工法を生み出し『安全に早く』に『環境に影響なく』も考慮してもらいたい」と注文する。
 6月のトップ会談で川勝平太知事から、トンネル湧水を大井川に全量戻せない場合の対応を問われたJR東海の金子慎社長は「乗り越える技術はあるんじゃないか」と全量戻しに自信を見せた。
 「丹那」から1世紀。効率と安全性を追求して世界をリードする一方、各地で水枯れも引き起こした日本の山岳トンネル技術は曲がり角に立つ。水環境の保全を求める大井川流域に、JRとトンネル技術者は応えられるだろうか。

 <メモ>水抜きと止水工法 トンネル掘削の際に地中の水が坑内に噴き出して水没したり、先端部が崩れたりする危険を防ぐ2種類の工事の方法。本坑とは別の穴を開けて水を排出するのが「水抜き」。水が噴き出す岩盤の割れ目に接着剤のような液体を流し込んで固め、水を止めるのが「止水工法」で薬液注入とも呼ばれる。噴き出す水の勢いが強いと止水工法は使えない。

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