地方創生という大義 期待が先行、衰退懸念も【大井川とリニア 第3章 “国策”の舞台裏④】

 多くの人が行き交う名古屋市のJR名古屋駅西口。地下街に向かう入り口のそばに、リニア中央新幹線の新駅建設現場が広がっていた。白い囲いの奥ではいくつもの重機が音を立てている。リニアの駅は地上の名古屋駅と直交する形で、建物10階分に当たる地下30メートルの深さに設置される。

リニア中央新幹線の新駅建設工事が進むJR名古屋駅周辺=10月上旬、名古屋市
リニア中央新幹線の新駅建設工事が進むJR名古屋駅周辺=10月上旬、名古屋市

 同市は2027年のリニア開業予定に合わせ、駅前の姿を一新する。地下駅の開削工事の完了後に生まれる駅東西のエリアを、広場として再整備する。現在の駅前広場もモニュメントなどを解体し、新たなまちの「顔」としてよみがえらせる。「駅を中心に街の回遊性や魅力を高め、人の交流が生まれる熱源にしたい」。市リニア関連・名駅周辺開発推進課長丹羽克昭の言葉には力がこもる。
 大井川流量減少問題を抱える静岡県とは対照的に、地域振興の起爆剤としてリニアを待ち望む沿線の他都府県。愛知県と同様に、長野県や岐阜県などでもリニア新駅の予定地周辺を中心にしたまちづくりを描く。27年開業を前提にした計画も多い。開業の遅れは投資効果をそぎかねない。
 それゆえに、JR東海の目標通りの事業進展は「切なる願い」。リニア中央新幹線建設促進期成同盟会会長の愛知県知事大村秀章は、事あるごとに本県を除く9都府県の「総意」を繰り返し強調してきた。
 リニアの効果を沿線だけでなく、「地方創生回廊」という形で全国各地へも波及させようと旗を振るのが、政府だ。16年1月の通常国会で前首相安倍晋三が初めて提唱。リニアが結ぶ東京-大阪の巨大都市圏「スーパー・メガリージョン」は、回廊のハブ(拠点)としての役割を担う。リニアは沿線の知事にとって、東京に一極集中する人、もの、金、情報を地方に分配する夢のルートに映る。
 ただ、こうした構想には唐突感も拭えず、政府がリニアを“国家的プロジェクト”に位置付ける大義として、地方創生を後付けしてきたのではないか―といぶかる向きは少なくない。「リニアができて地方が良くなるというのはどういう論理展開なのか分からない。党の総務会でも尋ねたことがあるが、誰も説明しない」。自民党元幹事長石破茂の言葉からは、与党内でも十分な議論や検証がなかったことがうかがえる。
 安倍に財政投融資の活用を提案した元内閣官房参与藤井聡でさえ、リニアと同時並行で地方への整備新幹線建設を促進させるといった戦略的な政策なしでは「メガリージョン以外の地域が衰退する。国全体の発展は望めない」と警鐘を鳴らす。
 活性化の期待が先行する一方で、根強く残る地域間の格差拡大や都市部への人口集中の加速に対する懸念。政府の掛け声と裏腹に、地方との関係性に矛盾をはらんだままリニアの計画は進む。=敬称略

 ■経済効果、沿線他県は大きく
 地域シンクタンクの中部圏社会経済研究所が2018年に公表したリニア中央新幹線の経済効果の試算によると、品川-名古屋の27年開業を前提にした37年度までの各県の実質県内総生産に与える効果(累積増加分)は、愛知県が2兆2738億円、岐阜県2兆278億円、長野県2兆1147億円に上った。
 工事に伴う直接的な投資や雇用の創出に加え、研究開発の進展による地域企業の生産性向上、人的交流活発化といった要因を踏まえて算出した。一方、静岡県は3305億円、北陸3県は200億~400億円台にとどまるなど、同じ中部圏でも大きな差が生じた。

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