残土置き場近く 崩落跡 土砂流入ダム化の恐れ【大井川とリニア 第2章 南アルプスは今④・完】

 南アルプス南部に位置する千枚岳。山頂に至る登山道の脇から崖下をのぞき込むと、大規模な斜面崩落を見ることができる。「千枚崩れ」と呼ばれ、専門家が特殊な地質や雨の多さから「日本一崩れやすい」とする南アルプスを象徴する場所の一つだ。

燕沢(手前)付近の残土置き場予定地と、斜面に崩落が見られる千枚岳東側(奥)=9月21日(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
燕沢(手前)付近の残土置き場予定地と、斜面に崩落が見られる千枚岳東側(奥)=9月21日(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)

 下山後、本社ヘリ「ジェリコ1号」で現地に向かい、改めて上空から崩落の様子を確認した。
 静岡市内のヘリポートを出発して間もなく、エメラルドグリーンの鮮やかな湖面が広がる井川ダム、畑薙ダムが見えた。周辺の山々はうっすらと紅葉し、一足早い秋の深まりを感じさせた。さらに北進し、千枚岳の東側斜面を流れる上千枚沢上空に到着した。
 上空から見る千枚崩れは斜面が激しくえぐれ、茶褐色の山肌があらわになっていた。周辺の緑に覆われた山体とは対照的。いくつも連なる治山ダムが崩落の危険性を物語る。地震や豪雨で山体が崩壊し、大量の土砂が流れ下る可能性がある。
 その下流に位置する燕(つばくろ)沢近くには、リニア中央新幹線南アルプストンネルの工事で大量に排出される残土の置き場が計画されている。東京ドーム約3個分の土が盛られ、高さは70メートルにも及ぶという。
 千枚崩れから大量の土砂が下流に流れ出ると、残土置き場で狭まった燕沢付近で天然のダムのような地形を形成し、大井川の流れをせき止める可能性が指摘されている。
 上空からは南アルプスの至るところに斜面の崩落が確認できた。V字谷の大井川上流部には計7カ所の残土置き場が設置される予定だ。崩れた土砂や残土がダムなどに流れ込めば、堆砂を加速させ、流域の利水に影響する懸念もある。
 南アルプスの大井川源流部にトンネルを掘り、残土を積み上げるリニア建設計画。将来にわたり、どこまで環境や利水への影響を排除できるのか。島田市に住み、大井川の恩恵を受ける身として人ごとではないと強く感じた。

 ■崩れやすい特殊な地質
 南アルプスは年平均3ミリ以上で隆起する世界でも特殊な地質だ。海側のフィリピン海プレートが陸側のユーラシアプレートに沈み込む際、海側のプレートに堆積した地層がはぎ取られ、陸側から運ばれた砂泥と混じり合った「付加体(ふかたい)」で作られている。
 地震や大雨によって崩れやすく、水を通しやすい性質がある破砕帯も各所にできた。トンネル工事で地下水位が低下し、土壌の水分が抜ければ、さらに崩壊しやすくなる。
 JR東海や国土交通省はリニア中央新幹線が整備されれば、東海地震など災害リスクへの備えになると説明する。だが、地震の専門家はリニアが危険地帯に建設され、南海トラフ巨大地震などで大きな被害を受ける恐れがあると指摘している。

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