掘削準備どこまで 作業基地工事、雨が阻む【大井川とリニア 第2章 南アルプスは今⓷】

 大井川上流部には、リニア中央新幹線南アルプストンネル工事の拠点となるヤード(作業基地)が3カ所に造られる。その整備の進捗(しんちょく)が2027年を目指すリニアの開業時期を左右するとして、JR東海の金子慎社長が今年6月、川勝平太知事との会談で必要な追加工事を認めるよう要請し、注目を集めた。本格的なトンネル掘削に向け、準備がどこまで進んでいるのか。下山途中、ヤードの建設地に立ち寄ってみた。

作業員用宿舎などがある千石ヤード=21日(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
作業員用宿舎などがある千石ヤード=21日(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
導水路トンネル坑口の予定地がある椹島ヤード=21日(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
導水路トンネル坑口の予定地がある椹島ヤード=21日(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
作業員用宿舎などがある千石ヤード=21日(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
導水路トンネル坑口の予定地がある椹島ヤード=21日(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)

 3カ所のヤードの中で最も奥に位置する西俣ヤードは道路が通行できず断念。3カ所の中央に位置する千石ヤードを訪れた。大井川すぐそばの小高い丘に2階建ての白いプレハブが並んで完成していた。通り掛かった工事関係者2人に建物について聞くと「作業員は誰も戻っていない」という。さらに取材を試みたが「私の立場では話ができない」と応じてもらえなかった。現場は閑散としてほかに人影はなかった。
 千石を後にして、登山者の拠点施設「椹島(さわらじま)ロッヂ」に隣接する椹島ヤードへ。大井川に面した敷地から、仮設の足場が組まれた作業員宿舎が2棟見えた。建設途中のようだが、作業員の姿はまばら。工事関係者は取材に丁寧に対応してくれたが「(7月の豪雨で)避難した従業員を集めるのはすぐには難しい。元の状況にいつ戻るのかは分からない」と言葉少なだった。
 各ヤードに行く際に使われる林道東俣線は7月の豪雨で通行不能になり、泊まり込みの作業員が一時孤立。安全確保のためその後、下山する事態となった。国内平均降雨量の倍を誇る多雨地帯は「雨の南アルプス」とも呼ばれる。
 林道には昨秋の台風19号の爪痕も残り、崩落した箇所が復旧していなかったため、河原に敷かれた迂回(うかい)路を車に揺られながら通行する経験もした。車窓からむき出しの山肌があちこちに見えた。「土砂崩れがいつ、どこで起きても不思議ではない」と感じる光景だった。

 ■宿舎や事務所、土砂処理装置も計画
 リニア中央新幹線南アルプストンネル工事の静岡工区で計画されているヤード(作業基地)は、非常用トンネル(斜坑)や導水路トンネルの坑口近くに建設される。作業員用の宿舎や事務所のほか、トンネル掘削で排出される土砂や水を処理する装置などを置く。
 ただ、2019年10月には最も工期の迫った西俣ヤードの地盤が台風19号で一部流されるなど豪雨被害もあり、作業は進んでいない。
 県は18年に作業員用の宿舎などに限って準備工事として認めたが、JR東海の金子慎社長は今年6月、リニアの27年開業に間に合わせるため、土砂や水の処理装置などの工事も追加で容認するよう川勝平太知事に要請。知事はトンネル本体と一体だとして追加部分の工事を認めなかった。

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