全国発信されぬ水問題 静岡「悪者」着工へ圧力【大井川とリニア 第1章 築けぬ信頼④・完】

 「静岡県がどんどん悪者になってしまう」「(リニア中央新幹線の開業延期が)静岡県だけのせいにされているのは甚だ遺憾だ」

川勝平太知事とJR東海の金子慎社長の会談を別室で取材する報道関係者=6月26日、県庁
川勝平太知事とJR東海の金子慎社長の会談を別室で取材する報道関係者=6月26日、県庁

 7月初旬の県議会常任委員会。リニアの開業時期を巡る全国的な世論に懸念の声が相次いだ。「静岡問題」として報道される全国ニュースに「JR東海がかわいそうという雰囲気になっている」と言う議員もいた。リニア工事では、静岡県は核心の大井川流量減少問題と向き合う一方、開業問題と捉える県外からの“圧力”との戦いも強いられている。
 ▶そもそも「大井川の水問題」ってなに?
 6月26日に県庁で行われた川勝平太知事とJR東海の金子慎社長による初会談。金子社長が切り出したのは水問題の解決策の提案ではなく、リニア静岡工区のヤード(作業基地)追加工事を認めてもらう要請だった。目標とする2027年のリニア開業に間に合わせるにはぎりぎりのタイミングだとして1時間余りの会談で繰り返した。7月10日には国土交通省の藤田耕三事務次官(当時)が県庁を訪れ、同様に追加工事の容認を求めたが、川勝知事はいずれも首を縦に振らなかった。
 その度に発信された全国ニュースの焦点は「静岡県が着工を拒否、27年開業が困難に」で、水問題の詳報は限られた。
 両会談に先立ち、国交省は流量減少問題を打開するため4月に専門家会議を設置した。同意した県側の狙いの一つは水問題を全国に発信するためだったが、合意したはずの「会議の全面公開」に国交省は応じず、県がウェブ会議の全国配信を求めても「委員への非難・中傷が発生する恐れ」を理由に拒否された。
 SNS(会員制交流サイト)では、流域住民が見返りを求めて着工を認めないという誤解に基づく情報や、「(流域の)酒造や製茶業者は勝手に困って野たれ死ねばいい」などの書き込みが相次いだ。国は流域住民への「非難・中傷」には対策を取ろうとしない。
 7月下旬、リニアを推進する自民党本部の会合に出席した愛知県の大村秀章知事は「27年開業は沿線の総意」とし、会合責任者の古屋圭司衆院議員(岐阜5区)も「計画通り進めてほしいと沿線の知事全員が言った。重く受け止めるべきだ」と静岡県をけん制した。
 リニア大阪延伸の遅れを懸念する大阪府の吉村洋文知事は記者会見で「リニアは国家戦略。どこか一つの県が嫌だと言えば国家戦略が止まるのは国の在り方としておかしい」と発言する一方、静岡県が着工を認めない理由は「自然環境だと聞いている」と水利用の問題である点に触れなかった。沿線知事や与党幹部の発言は世論に少なからぬ影響を与える。
 農家に水を供給する大井川土地改良区の内田幸男理事長は早期着工を求めるJRに「着工ありきの姿勢が見えた。信用できないと印象付けられた」と不信感を隠さない。「しっかりと対応しないのはJR。静岡が悪者になるのはおかしい。外堀を埋めるようなことに県民は乗らない」

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