産業、地場の味 良質な地下水 発展の源【大井川とリニア 序章 命の水譲れない㊥】

 吉田町片岡の静岡うなぎ漁業協同組合に、周辺の養殖場から出荷されたウナギが魚籠(びく)ごと一昼夜を過ごす「浸場(つけば)」がある。水温30度前後で育ったウナギが、16度から17度の“地下水掛け流しのプール”で一気に身を引き締める、この地域ならではの施設だ。

魚籠に入ったウナギが冷たい地下水の中で過ごす「浸場」=6月末、吉田町片岡
魚籠に入ったウナギが冷たい地下水の中で過ごす「浸場」=6月末、吉田町片岡
大井川地域の水理地質概念図(静岡県資料に基づく)
大井川地域の水理地質概念図(静岡県資料に基づく)
魚籠に入ったウナギが冷たい地下水の中で過ごす「浸場」=6月末、吉田町片岡
大井川地域の水理地質概念図(静岡県資料に基づく)

 戦前から始まった吉田地域の養鰻(ようまん)業は1960年代に最盛期を迎え、国内生産の7割を本県が、その半分を吉田町が占めた。現在は主要生産地が他県に移ったが、藁科昌利組合長(66)は「過去の発展も、今、高い品質を保てるのも、南アルプスの伏流水があってこそ」と強調する。
 島田市から下流で広大な扇状地を形成する大井川。分布する粘土層の影響で下流部には加圧された帯水層が広がり、巨大な水がめが人々の生活や産業を支えてきた。両岸には食品や化学、製薬、製紙など豊富な地下水を目当てに多くの工場が進出した。焼津市や吉田町の海岸付近には深さ100メートル超の自噴井が点在し、現在も防災、生活用水などに幅広く利用されている。
 一方で過剰な井戸水の使用は塩水化などの地下水障害を招いた。60年代の調査をきっかけに、県は条例で一定規模の井戸を使う事業者の届け出や採取量の報告を義務付け。扇状地全域を規制地域とし「新設には慎重に対応している」(県水利用課)という。
 大井川地域地下水利用対策協議会(事務局・島田市)によると、民間企業をはじめ約400の届け出者がくみ上げる地下水は2018年実績で1日あたり37万トン弱に及ぶ。毎秒に直すと約4トン。くしくも、トンネル工事に伴う湧水問題で議論されている水量に匹敵する。
 県中部の製薬会社の担当者は「プラントを動かせば、大量の冷却水が必要になる。安価な地下水が不可欠だ」と指摘。その上で「リニア(中央新幹線建設)の影響があってもなくても、良質な水がなくなれば企業は出て行くしかない」とシビアに断言する。
 県東部の清水町を流れる国指定天然記念物・柿田川。県内で最も知られている湧水で、富士山と周辺に降った雪や雨が地下に染み込み、26~28年後に柿田川に湧き出るとの分析結果がある。
 旧大井川町職員で流域の地下水利用に詳しい焼津市吉永の大石拡司さん(69)は「地下水は工場、地域、水道と全てに関わる。トンネル工事の影響が出た場合、JR東海は補償できるのか。10年、20年先に地下水の枯渇や塩水化が起こるかもしれない。国や県もしっかり調査する必要がある」と訴えた。(「大井川とリニア」取材班)

 <メモ>大井川地域の地下水利用 県水利用課によると、大井川地域(島田、焼津、藤枝、牧之原市、吉田町)では県条例に基づく届け出分だけで企業など約400者が1000本の井戸を設置(2019年4月時点)。18年の地下水の1日あたりの採取量約37万トンを用途別にみると、生活用(主に水道水)、工業用がそれぞれ約39%、養魚用が約17%。上水道として吉田町は100%(牧之原市の一部にも供給)、焼津市は88%が井戸水に頼っている。

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