大井川地下水減、懸念強く リニア工事で湧水静岡県外流出

 リニア中央新幹線南アルプストンネル工事で、大井川上流域の地下水がトンネル湧水として静岡県外に流出するのは避けられないとするJR東海の主張を踏まえ、下流域の地下水が減少するのではないかとの懸念が強まっている。安価で豊富な下流域の地下水は住民生活や企業活動を支えてきたが、専門家は、影響が出ても工事との因果関係を立証するのは難しいとして「泣き寝入りを余儀なくされる」との見方を示す。

大井川下流域の用途別地下水利用量(2018年)
大井川下流域の用途別地下水利用量(2018年)
「県外流出しても河川流量は減らない」というJR東海の考え方(カッコ内は県や専門家の反論)
「県外流出しても河川流量は減らない」というJR東海の考え方(カッコ内は県や専門家の反論)
大井川下流域の用途別地下水利用量(2018年)
「県外流出しても河川流量は減らない」というJR東海の考え方(カッコ内は県や専門家の反論)

 「地下水のおかげで私たちは生かされている」と話すのは焼津市吉永の農家内田幸男さん(84)。内田さんが住む旧大井川町には町内会ごとに住民が自由に使える井戸があり、大量の水が自噴している。生活と密接に関わり、洗濯や下水処理、災害時を含む飲料水にも活用される。
 井戸の深さは100~120メートル。一年を通し水温約16度と夏冷たく、冬温かい。川の表流水が渇水で減っても水量を維持し、流域に水を供給し続ける。水を大量に使う食品加工や水産加工、化学薬品などの業種を中心に多くの工場も井戸を掘って地下水を使う。内田さんは「地下水が細ると企業が逃げて地域経済が衰退する」と危機感を口にする。
 中下流域の地下水について、JRは県との協議で「影響がないと言うつもりはない」と説明してきたが、宇野護副社長は「(工事現場から)100キロ離れた場所なので影響は出ないと考えている」と言い始めた。トンネルから湧き出た地下水を表流水として川に戻し、河川流量は減らないとも主張している。
 流量減少対策を検討する県有識者会議委員の大石哲神戸大教授は「中下流域の地下水への影響は判断しづらい」と指摘し、影響の有無を科学的に示すようJRに注文する。旧大井川町の水道担当部署に10年以上勤務した焼津市吉永自治会長の大石拡司さん(68)も「工事が地下水脈の流れを変えるのでは」と懸念し、第三者機関が影響の有無を判断すべきだと強調する。内田さんは「JRには影響が出た場合の補償よりも南アルプスを改変しないことを望む」と切実な思いを語る。

 <メモ>大井川下流域の地下水利用 県内では富士山麓とともに地下水が豊富な地域とされ、県が把握しているだけでも2018年は毎日平均37万トン近い地下水が使われた。18年12月末時点で浅井戸、深井戸合わせて999本がある。一般家庭のほか、ウナギ養殖や酒類の製造、大規模な食品工場などでも使われる。過去には地下水のくみ上げ過ぎで沿岸部の塩水化や、地盤沈下が起きた例もある。(2019年10月17日静岡新聞朝刊)

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