南アルプス保全、強まる懸念 リニア環境アセス論点整理

 JR東海がリニア中央新幹線計画の環境影響評価(アセスメント)準備書に記した南アルプスの環境保全策に、静岡県は3月25日までに見解(知事意見)を示す。準備書が公表された2013年9月以降、大井川水系の流量減少や生態系への影響、発生土(残土)処分地の崩壊危険性などに各分野の専門家から懸念が示された。焦点はユネスコエコパーク(生物圏保存地域)との両立。知事意見提出まで詰めの段階に入った環境アセスの論点を整理する。

地下水が流出するイメージ
地下水が流出するイメージ
リニアのルート
リニアのルート
残土置き場の一つに挙がる燕沢=昨年11月、静岡市葵区
残土置き場の一つに挙がる燕沢=昨年11月、静岡市葵区
環境影響評価の流れ
環境影響評価の流れ
地下水が流出するイメージ
リニアのルート
残土置き場の一つに挙がる燕沢=昨年11月、静岡市葵区
環境影響評価の流れ


 ■大井川の流量減予測 毎秒2トン 17%に相当
 本県部分のリニア計画は、静岡市最北部の南アルプス地下400~1300メートルを東西10・7キロにわたって長大トンネルが貫く。
 JRが大井川水系源流部の7地点で工事後の河川流量を試算したところ、赤石発電所木賊取水せき上流で毎秒2・03トン減るとの結果が出た。
 毎秒2・03トンは同地点の平均流量(11・9トン)の約17%に相当し、下流域の島田、掛川など7市約63万人の水利権量に匹敵する。当該地域の自治体は懸念を表明し、JRに対し、保全措置を尽くしても減水となる場合は代替水源を確保し、利水団体と継続的に協議することなどを求める要望書を県や静岡市に提出した。
 トンネルを掘ることで河川流量が減るメカニズムは、掘削途中に地中の水脈にぶつかり「トンネル内部に地下水が染み出す」(JR担当者)ことが要因。JRは、トンネル周囲の地盤の隙間を埋める薬剤を注入したり、防水シートを施したりした上でトンネルをコンクリート加工する案を示している。
  こうした対策を講じても、地下水がトンネル外側のコンクリ表面を伝うなどして山梨、長野両県内のトンネル開口部から流出する懸念=図1=が残る。
 リニア実験線を敷設した山梨県内では、トンネル工事により笛吹市内の一部で水源が枯渇する事例が確認されている。給水車で水を供給するなどの応急措置が取られているが、現在も恒久的な解決策には至っていない。事業の一部を請け負った鉄道・運輸機構(横浜市中区)は水源枯渇の事実を認めた上で、「対応を協議中のため、詳細は明らかにしない」としている。
 静岡県の環境影響評価審査会でも、この件は話題になり、ある委員は「予測そのものの信頼性が疑わしくなった。むしろ2トン以上の減量の可能性もあるのでは」と不安を抱く。
  JRは仮に減量する場合は、流出した地下水をポンプでくみ上げて大井川に戻す案を提示する。ただ、「粘土質を含む地下水を清流に戻すことは、性質の異なる水を混ぜることになる」(和田秀樹審査会長)との指摘もある。

 ■7処分地に残土 求められる防災措置
 東西10・7キロに及ぶトンネルと、工事のために掘るトンネルからは合計で360万立方メートルの残土が出ると予測され、現場周辺の7カ所に処分地=図2=の設置が計画されている。
 このうち最大規模の燕(つばくろ)沢と扇沢の2カ所について、地質地形が専門の狩野謙一静岡大特任教授は「適地でない」と分析する。
 燕沢は、すぐ上部の上千枚沢が大崩壊地という。大雨や地震で土砂が崩れれば大井川をふさぎ、天然のダムができて決壊につながりかねない。「そうすると残土処分地も覆われ、水流や水質、生態系に甚大な影響を及ぼす」と指摘する。
 標高2千メートル付近の扇沢は上部に崩壊がみられ、周辺に地滑りの痕跡もあるという。防災科学技術研究所の地滑り分布図でも不安定地域の枠内に位置し、狩野特任教授は「ここに残土を置く発想が理解できない」と批判した。
 JRは「安定した構造物になるよう勾配や擁壁、排水設備などを検討する」と理解を求める。
 残土360万立方メートルの内訳は、トンネル本坑掘削による排出が約150万立方メートル、非常口(斜坑)が2カ所で計約76万立方メートルなど。JRは処分地7カ所への配分は今後決めるとしている。

 ■工事期間10年超 作業員約700人 生活排水課題
 完成まで10年以上を要するとされる長大トンネルの建設工事。県によると、南アルプスの3カ所に設ける宿舎には、ピーク時に700人前後の作業員が生活する見通しだ。
 静岡市最北部の人口600人ほどの井川地区を超える規模の“集落”が形成されることになり、生活排水の処理が課題だ。
 専門家や有識者の議論では、事業の長期性と規模の大きさを念頭に、水質悪化を不安視する意見が相次いだ。静岡市環境影響評価専門家会議は生活排水の高度処理設備の導入など、河川に影響が生じないような保全措置を強く求めている。

 ■希少動植物分布 JR、追加調査応じる姿勢
 長大トンネルの建設現場を取り巻く南アルプスには多様な希少動植物が存在する。静岡市、川根本町を含む3県10市町村は同地域を含むエリアでユネスコエコパークの登録を目指し、開発と保全の整合性が問われている。
 アセス準備書は、県条例が保護対象とするラン科の植物「ホテイラン」の生育環境を「保全されない可能性がある」と明記した。絶滅の危険性が極めて高いとされるイヌワシやクマタカなども同様の評価をしている。
 これを受け静岡市環境影響評価専門家会議は、14日に行った市長答申で「多様な生態系を損なうことはエコパーク全体の機能喪失につながる」と指摘し、「必要な場合は計画の見直しも含めてエコパークの登録実現を積極支援すべき」とまとめた。
 JRは、南アルプスで生息しているとの情報がある魚類のヤマトイワナやチョウの一種オオイチモンジが調査対象外だったこともあり、「専門家の独自の調査実績をわれわれのデータに補完して実態把握することも考えたい」と説明。着工後の追加調査に応じる姿勢を示し、計画推進に理解を求めた。

 ■1都6県で同様作業
 JR東海は3月25日までに提出される県知事意見を踏まえて環境影響評価書を作成し、公表する。
 同様の作業は他の沿線6都県でも行い、全体的な実施計画が策定され、国の認可へとつながっていく。JRは今年秋ごろの着工を目指す。
 環境アセスは、開発事業による重大な環境影響を防ぐために法律が定めた手続き。
 県は、リニアの建設工事が行われる南アルプスが県民や国民のかけがえのない財産であることを踏まえ、県の環境アセスで初めて公聴会を実施し、広く意見を募る。(2014年1月16日静岡新聞朝刊)

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