南アルプス共生の頂 エコパーク1年④ 近づくリニア工事

 JR東海のリニア中央新幹線工事予定地となっている静岡市葵区の大井川源流部。5月下旬、雪解け水で勢いを増す西俣川を市内外の渓流釣り愛好家らでつくる「やまと渓流会」のメンバーが訪れ、県指定の絶滅危惧魚種ヤマトイワナの生息調査を行った。

大井川支流の西俣川。リニア中央新幹線工事による水環境や動植物の生息環境悪化が懸念されている=5月24日、静岡市葵区
大井川支流の西俣川。リニア中央新幹線工事による水環境や動植物の生息環境悪化が懸念されている=5月24日、静岡市葵区

  「工事で水量が減ったり水質が悪くなったりすれば、必ず魚に影響が出る」。メンバーの一人は不安な表情を見せた。
  JR東海は4月、トンネル本線から12キロ下流の椹島(さわらじま)まで導水路トンネルを建設する方針を明らかにした。トンネル本線内の湧水を大井川に戻すことで中下流域の水減少懸念を払拭(ふっしょく)する案だ。ただ、導水路直上の沢が枯渇する恐れが新たに生じ、県中央新幹線環境保全連絡会議の委員からは「河岸林が壊され、川の生態系が大きく狂う」などの声も上がっている。
  西俣川、東俣川の合流地点には大井川水系で初の大規模ダムとなった田代ダム(1928年完成)がそびえ、かつて木材の切り出しに使われた道が残る。残された自然をどう守るのか。「人と自然の共生」を理念とするエコパーク(生物圏保存地域)登録は、過去に例のない大規模開発となるリニア工事との向き合い方にも課題を突き付けている。
  工事に伴い発生する大量の残土が与える影響は計り知れず、付随工事も景観を損ねる可能性がある。静岡大の増沢武弘特任教授は「エコパーク登録地として、自然を残す配慮と工事後の復元は必須条件」と、ことしも工事予定地内の植生調査を続ける考えだ。
  ヤマトイワナは、かつてニッコウイワナを漁協や釣り人が放流し、交雑が進んで減少したとされる。県は生息域の保全を求めていく考えだが、詳しい調査については「希少種はほかにもある。事業者の調査で発見されなければ個別の対応は難しい」(自然保護課)。
  県の環境保全連絡会議の会長を務める和田秀樹静岡大名誉教授は「正確なモニタリング手法を構築して精度を上げなければならない。事業者は(流量などの)変化をつぶさに公表することが不可欠」と強調する。「今ある自然の現状を知らなければ、工事がどのような影響を与えるのか検証できない」と、行政側にも積極的な関与を求める。

  <メモ>南アルプスとリニア中央新幹線計画JR東海は2014年12月に東京・品川―名古屋間の建設工事に着手。県内区間はユネスコエコパーク登録地域の地下をトンネルで通過する計画だが、JR側は着工時期やトンネル掘削で出る発生土の処理について詳細を示していない。静岡市はエコパークの管理運営計画で「(リニア建設が)南アの自然環境に多大な影響を及ぼすことが危惧される」と指摘し、エコパークとしての機能低下にも懸念を示している。
(2015年6月9日静岡新聞朝刊)

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