南アルプス共生の頂 エコパーク登録(下)利活用探る地元民

 町域の約94%を森林が占め、広大な河川敷を持つ大井川が蛇行しながら流れていく。深い山あいにある川根本町では、立ち込める川霧や昼夜の大きな寒暖差が、農産物に豊かな風味を与える。

山育ち野菜の栽培に取り組む上中通寿さん(右)ら生産農家=4日午後、川根本町青部
山育ち野菜の栽培に取り組む上中通寿さん(右)ら生産農家=4日午後、川根本町青部

  同町の「かみなか農場」の上中通寿さん(45)は、山あいの気候を生かした良質な野菜を育て、独自ブランドの確立を目指している。その名も「川根やまそだち」。町内の野菜農家と連携して出荷協議会を設立し、島田や藤枝市などのファーマーズマーケットに持ち込んでいる。
  夏の気温差で養分をため込んだキュウリやトウモロコシ、冬場の積雪の下で甘みを蓄えた白菜などが自慢。傾斜が多い土地柄のため生産量は少ないが、「その分、目は届きやすい」と上中さん。エコパークの登録地にふさわしい丹念な野菜作りを続けている。
  2012年に登録された先進地の宮崎県「綾」では、農産物や観光サービスなどを対象に、エコパークブランド制度の導入が検討されている。約40年前から推進してきた有機農業などが候補に挙がっているという。
  川根本町は宇治茶(京都府)、狭山茶(埼玉県)と並ぶ日本三大銘茶「川根茶」の産地。全国茶品評会の普通煎茶部門で産地賞をたびたび受賞するなど、品質の高さは国内では折り紙付きだ。
  ただ、静岡茶の市場縮小や茶価低迷の影響で農家はあえぎ、後継者不足など深刻な問題に直面する。関係者は登録を川根茶の名声をより高める好機と捉え、茶業振興につなげる方策を探る。
  町の北側にそびえる南アルプス南限の光(てかり)岳は、山頂付近が本州唯一の原生自然環境保全地域に指定されている。現在、光岳へのルートは、土砂崩れのため通行止めが続いている。
  それでも地元登山グループ「千頭山の会」のメンバーは、地元の山々で道しるべの設置やごみ拾いなどの活動を続ける。沢本広会長(69)は「貴重な生き物に会える地元の山。多くの人に登ってもらいたい」と話す。
  山間地の豊かな資源と厳しい気候の中で暮らしてきた住民たち。新茶や山開きの時期には必ず神事を営み、自然の恵みに感謝することを忘れない。人々と山の共生の歴史が、世界に認められた。
 
  <メモ>エコパークブランド 登録地域の農産物や自然を巡る体験ツアーなどに、エコパークの意義を上乗せしたブランド。「産地限定」「無農薬」などの条件を満たす商品に、ロゴ付きシールを貼るなどの活用方法が考えられる。志賀高原(1980年登録)では生産が盛んなリンゴやブドウなど果樹を対象に、8月までにブランドマークの策定を目指している。南アルプスも各市町村や関係10市町村単位で、ブランド創設の動きが出てくることが予想される。
(2014年6月15日静岡新聞朝刊)

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