南アルプス共生の頂 エコパーク登録(中)「宝」への市民意識

 「南アルプスが日常的に見える山梨、長野県に比べ、静岡県では素晴らしい宝だとあまり認識されていない」。ユネスコエコパーク登録検討委員長の増沢武弘静岡大特任教授は5月13日に静岡市内で開かれた講演会で、南アに対する市民の関心の低さを真っ先に指摘した。

「南アルプスかるた」を製作する静岡大生ら。自治体はあの手この手で市民の関心を高めようとしている=10日、静岡市駿河区の静岡大静岡キャンパス
「南アルプスかるた」を製作する静岡大生ら。自治体はあの手この手で市民の関心を高めようとしている=10日、静岡市駿河区の静岡大静岡キャンパス

  2012年度の市の調査では、市民のエコパーク認知度が南アの玄関口・井川地区で81・6%だったのに対し、市全体では51・4%にとどまった。増沢特任教授は「保全と利活用には市民の力が不可欠」と強調する。
  「10年、20年後に参加者を十分に確保できるか不安」。南アでシカの食害対策に取り組むボランティア団体の鵜飼一博さん(44)はこう漏らす。年間延べ約500人が参加し、高山植物の群生地を防護柵で囲う活動に取り組む。柵の維持管理など、今後も作業の増加が見込まれるが、メンバーの高齢化で安定した活動が継続できるか不透明。「問題意識を共有できる人が増えてほしい」と鵜飼さんは願う。
  エコパークの理念を実現するために、市民の意識をどうやって高め、主体的に保全などに取り組んでもらうか。静岡市や川根本町には住民への啓発・教育という課題が突きつけられている。
  静岡市は子どもを啓発のターゲットにする。昨年初開催した高校生対象の高山植物保護セミナーを今夏も開く予定。小学生向けに南アの価値を漫画で分かりやすく解説する環境学習ハンドブックも今月12日に完成した。田嶋太エコパーク推進担当課長は子どもたちを次代の担い手として期待する。「貴重な自然が近くにあると認識し、誇りを持ってもらうのが第一歩。意識が高い市民を育てることが、人と自然の持続的な共生につながる」
  南ア周辺の3県10市町村などでつくる組織も、子どもの関心を高める一手として「南アルプスかるた」を静岡大教育学部の学生と作製している。同学部2年の太田真理奈さん(19)は「自然の美しさを感じてもらいたい」と思いを込める。
  行政と町民有志が協働でエコツーリズムを推進する川根本町。高齢化率は県内で最も高いが、高齢者の知識・経験を町の“財産”として活動に生かそうと、本年度、老人会の集まりなどでエコパークの理念などについての説明会を開く方針でいる。
 
  <メモ>ユネスコエコパークの理念 世界自然遺産が顕著な普遍的価値を有する自然地域の保護・保全を目的にしているのに対し、エコパークは生態系の保全と持続可能な利活用の調和を目指している。生物多様性の保全、経済と社会の発展、学術的研究支援の三つの機能を持ち、自然環境と人間社会の共生モデルとなる地域を登録する。
(2014年6月14日静岡新聞朝刊)

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