南アルプス共生の頂 国立公園指定50年 未来へつなぐ宝(上)

 岩肌にへばりつきながらかれんに咲き、林の隙間では力強く伸びる。南アルプスには「氷河時代の遺存種」と呼ばれるキタダケソウやチョウノスケソウなど、多様な高山植物が織りなす「お花畑」が点在する。

高山植物などの植生調査に取り組む鵜飼一博さん=2004年9月、荒川岳
高山植物などの植生調査に取り組む鵜飼一博さん=2004年9月、荒川岳

  多くの登山者を魅了してきた高山植物の群生地は近年、餌を求めて高山帯まで進出したニホンジカに食い荒らされ、存亡の危機にひんしている。「きれいに刈られたゴルフのグリーンのようになっている」。南ア高山植物保護ボランティアネットワークの鵜飼一博さん(44)は現場で目の当たりにした“惨状”をこう表現する。
  ネットワークは2002年に発足。静岡県の委託で、お花畑にシカの侵入を防ぐ柵を張る活動に取り組んでいる。鵜飼さんは活動へ皆勤を続ける。
  鵜飼さんは県職員で、もともとはネットワークの担当だった。大学で登山を始めたが、もっぱら北アルプスを好み、担当になるまではお花畑を見たことすらなかった。04~06年に南アの植生を調査した際、お花畑を楽しみにしていたが、既に食害は広範囲にわたっていた。「現場では、どうやって被害を防いだらいいのかという思いで頭がいっぱいになった」
  お花畑の減少は1990年代から徐々に進行したとされる。シカの食害と断定されたのは05年。「こんな高いところにシカが来るわけがないという先入観が関係者の判断を遅らせた」と悔やむ。
  お花畑を一つ一つ防護柵で囲う地道な活動は着実に成果を上げている。一方で「防護柵は対処療法でしかない。根治には、個体数の調整が必要」との認識も示す。だが、シカの生息数が把握できず、農林業など人の生活に影響が及んでいない今は捕獲などが行いにくい状況だ。
  ネットワークのメンバーは50~60代が中心だが、最近は若年層も増えてきた。「皆勤賞でなくてもいい。経験の一つとして参加し、関心を持ってくれれば」。若い世代の意識の高まりを喜ぶ。
  担当を外れた今も、活動に身を投じるのは南アへの愛情があるから。「今は北より南アの方が断然好き。静岡県の特別な場所だ」
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 南アルプスは6月1日、国立公園指定50年を迎える。同月中旬にはユネスコエコパーク(生物圏保存地域)の登録可否も決まる。貴重な動植物が分布する豊かな自然環境、周辺に暮らした先達が培ってきた歴史・文化―。そんな“宝物”と共に生き、支える人たちの目を通じ、南アの変化、現状を見た。

  <メモ>南アルプスの高山植物 北岳や間(あい)ノ岳など3千メートル級の山々が連なる寒冷な気候条件の下、多種多様な花が咲く。多様性は国内有数で、県によると、静岡側だけでも約330種が生育する。北岳の高山帯にしか生育しないキタダケソウをはじめとする固有種(亜種も含む)は北海道に次いで2番目に多い。チョウノスケソウ、タカネマンテマなどは世界の南限種で、氷河期に大陸から日本列島に南下したとされる。
(2014年5月22日静岡新聞朝刊)

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