南アルプス共生の頂② 温暖化とシカ食害 氷河期の遺存種危機

​ 南アルプスでは、かれんで彩り豊かな高山植物と出合う。「氷河期の遺存種」と呼ばれるキタダケソウやチョウノスケソウなどは世界の南限種だ。

シカの食害から高山植物を守るための防護柵を設置する高校山岳部員=2013年8月、静岡市葵区の千枚小屋近く
シカの食害から高山植物を守るための防護柵を設置する高校山岳部員=2013年8月、静岡市葵区の千枚小屋近く

 約2万年前。日本の平均気温2014は現在より7~9度低く、寒冷な気候に生きていた大陸の動植物が日本列島に南下した。それらの動植物は地球温暖化で生息域が狭まり、いま南アルプスで存亡の機にある。高峰の連なりは、地球環境の変化を映す最前線でもある。
​ 生息域を高山地帯に拡大するニホンジカの食害は深刻さを増す。各所で食い尽くされるお花畑。花を求めるチョウは減り、生態系への影響は顕著だ。露出した表土は降雨で削られ、土砂崩れの危険地帯となっていく。
​ 登山者の有志も参加し、シカの食害対策が進む。お花畑への侵入を防ぐための柵と網を設置したり、植生復元マットを敷いたりと、地道な活動が続く。
​ 人間がもたらす環境の変化に応じ、生き抜くために活動範囲を広げるシカ。そのシカの食害対策に奮闘する人々。参加者は皆、自然の摂理とは何か、環境保全とは何かに思いを致すことになる。
​ 静岡市は2013年夏、千枚岳周辺で高校山岳部員対象の高山植物保護セミナーを初めて開いた。
​ 参加した私立聖光学院山岳部の部長杉浦健太郎さん(17)。シカの増殖は雌の保護施策など、人間が生態系に手を加えたことも要因と学んだ。千枚小屋周辺でシカの防護柵を設置する作業に取り組み「セミナーを続けてほしいし、お花畑の復活を目指したい」と活動の継続を誓った。
​ 高山植物の調査保護活動を続ける増沢武弘静岡大特任教授(68)は「環境省が主体的に、県や市町村と連携して対策に取り組む時」と話し、国主導の対策が必要な時期に来たと指摘する。「シカの生息地に県境はない」。広域連携対策の必要性を強く訴える。
​ 氷河期の遺存種で特別天然記念物ライチョウの生息環境も狭まっている。イザルガ岳周辺で1997年から調査を続ける静岡ライチョウ研究会によると、イザルガ岳ではここ数年、ライチョウを確認できていない。
​ 会長の朝倉俊治さん(61)は「長い期間の中で分布がないだけならばよいのだが」と不安視し、繁殖場所になるハイマツの分布や生息環境の変化を探っている。「調査データを記録し続け、今後の保全活動に生かしたい」。郷土の山に生きるライチョウのデータを蓄積し続ける活動は、「静岡県民としての責務」と語った。

 <メモ>高山植物 寒冷地の気候に生きる植物。南アルプスでは風が強く当たる地帯や、雪渓地帯など、方角や地形によって気温や水分の条件が変わり、多種多様な花々が咲く。日本で2番目に高い北岳の高山帯にしか生育しないキタダケソウは1994年、国内希少野生動植物種に、その生育地は保護区にそれぞれ指定された。 (2014年1月12日静岡新聞朝刊)

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