南アルプス共生の頂① 高い山、深い谷 多様性育む自然の妙

 「大きくて、静か。日本の山を象徴する樹林。その空気は人間の心を清浄にする」

高い山と深い谷が特徴の南アルプス。茶臼岳、上河内岳、赤石岳、荒川三山、塩見岳などが連なる。右下は大井川と畑薙湖=2013年12月16日、静岡市葵区(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
高い山と深い谷が特徴の南アルプス。茶臼岳、上河内岳、赤石岳、荒川三山、塩見岳などが連なる。右下は大井川と畑薙湖=2013年12月16日、静岡市葵区(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
南アルプス国立公園
南アルプス国立公園
高い山と深い谷が特徴の南アルプス。茶臼岳、上河内岳、赤石岳、荒川三山、塩見岳などが連なる。右下は大井川と畑薙湖=2013年12月16日、静岡市葵区(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
南アルプス国立公園

​ 60年余、四季折々の南アルプスをファインダー越しに、つぶさに追い掛けてきた山岳写真家白籏史朗さん(80)。南アルプスの魅力を語る。
​ 人々を引き付ける3千メートル級の山々。生い立ちは推定2億年前にさかのぼる。海洋プレートの沈み込みで、海底の岩や地層が日本列島の陸に持ち上げられ、山岳地帯を形成した。その動きは今もやまない。年間で約4ミリの隆起を続けている。
​ 南アルプス、赤石山脈の由来は赤い石。海底でプランクトンが降り積もった岩石は赤みを帯びる。悪沢岳、赤石岳、塩見岳などで見られ、地質地形が専門の狩野謙一静岡大特任教授(66)は「深海底からの隆起が3千メートルまで及んでいるのは世界でもまれ。地形変化の速度も速い。世界一級レベルの価値だ」と評する。
​ 日本の北の屋根、北アルプスは「雪のアルプス」と称される。これに対し、南アルプスは「雨のアルプス」だ。多雨が山々を削ってきた。南アルプスの代名詞である高い山と深い谷は、雨粒の一滴一滴で形成されてきた。
​ 水滴はやがて清流となり、富士川、安倍川、大井川、天竜川の流れをつくる。イワナやアマゴに命を与え、樹林帯を育む。ふもとの田畑を潤し、人間の営みの源となった。山々はキタダケソウなど高山植物の固有種を生み、植物数は約1980種にも上る。特別天然記念物ライチョウの生息地は世界の南限となった。
​ 「森で動植物と出会うと、共生の気持ちがわく」。南アルプス関連で数々の著書を残す山岳ガイド永野敏夫さん(72)は語る。山の稜線(りょうせん)に出る前の、深い深い森こそが、南アルプスの魅力だという。
​ 登山者は、山の頂や青い空と出会うまで数時間、うっそうとした森の中を歩く。ブナやミズナラなどの大木と、その緑に抱かれると身が清められる。自然と対話しながら、ようやく稜線に到達する感動は大きい。
 永野さんは、南アルプスの森でツキノワグマに何度も遭遇した。そのたびに共生の喜びを体感した。近年は道路やダムの開発で、クマの個体数は減少傾向にある。
​ 「山は人間だけのものではない。静かに登り、自然に謙虚にならないといけない。それが登山の原点」
​ 懐深い山に登山者を案内する時、永野さんはこのことを一生懸命に伝えている。       
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​ 南アルプスは1964年6月1日、国立公園に指定され、今年で50周年を迎える。ユネスコ(国連教育科学文化機関)によるエコパーク(生物圏保存地域)の登録の可否も決まる。JR東海のリニア中央新幹線トンネル掘削工事の環境影響評価も議論が活発化する。節目の年に自然と人の共生を考える。

​ <メモ>南アルプス国立公園 静岡、山梨、長野の3県にまたがる東西約15キロ、南北約50キロに及ぶ日本有数の山岳公園。世界遺産富士山に次いで国内で2番目に高い北岳(3193メートル)をはじめ、本県の赤石岳(3120メートル)など3000メートル級の山々が連なる。環境省によると、2011年度の公園利用者は51万人。(2014年1月11日静岡新聞朝刊)

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