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減水リスクの認識、情報開示不足 溝深める【大井川とリニア 第8章 流域の理解は得られるか②】

 リニア中央新幹線工事に伴う大井川の水問題で最大の焦点は中下流域で水量が減るのかどうかだ。JR東海は2月の国土交通省専門家会議で、地質や降水量が自社の想定通りにならない場合などの「リスク」をパターン分けして水量が減る可能性もあり得ると説明した。宇野護副社長は会議後の取材に「リスク要因を取れば(水量減少や水質悪化の)可能性はゼロではないとなるので、それも含めてきちんと説明することが重要だ」と答え、県側はJRがリスク重視の姿勢に転換したと肯定的に捉えた。

JR東海が公表しない条件で県に一時貸し出した段ボール10箱などの環境影響評価の関連資料(県が2018年10月に撮影)
JR東海が公表しない条件で県に一時貸し出した段ボール10箱などの環境影響評価の関連資料(県が2018年10月に撮影)
JR東海と利水者のリスクに関する考え方や対応の違い
JR東海と利水者のリスクに関する考え方や対応の違い
JR東海が公表しない条件で県に一時貸し出した段ボール10箱などの環境影響評価の関連資料(県が2018年10月に撮影)
JR東海と利水者のリスクに関する考え方や対応の違い

 一方で金子慎社長は「モニタリング(継続的な観測)で本当にそうなるのか確認していく。リスクの面だけを強調して、起こりそうだというのは間違っている」(11月の記者会見)とたびたび表明している。利水者は金子社長の姿勢に違和感を覚えるという。
 大井川右岸土地改良区の浅羽睦巳事務局長は「可能性が高い、低いにかかわらず、影響があるのなら、解決する方法を示してほしい」と具体策の提示を求める。
 JRはトンネル貫通までに湧水が県外流出することについて、貫通後10~20年かけて流出した水と同じ量を山梨県から戻す方法を提案。その後、撤回したが複数の利水関係者から「水が減った時に必要なのに減った後に戻してどうするのか。JRは水問題を真剣に考えているのか」と厳しい意見が相次ぐ。
 国交省出身でJRとの協議を担当する難波喬司副知事は各地での公共事業の経験を踏まえ、住民と事業者が認識する影響の大きさは異なると考える。9月の専門家会議では「科学的に同じ説明をされても住民とJR東海ではリスクの受け止め方が違う。対等なコミュニケーションができないと(流域の)理解は得られない」と対話の在り方を説いた。18年に上梓(じょうし)した著書「実務家公務員の技術力」では「誠意ある、分かりやすい情報公開は事業者の義務」と記し、「情報公開の不足は住民の不信感を大きくさせる」と指摘する。
 昨年9月に本紙が大井川直下で高圧大量湧水発生の懸念があると書かれた非公表の地質調査資料を取り上げた際、JRは県が求めた段ボール10箱分の資料の公表を2度にわたって拒否。今も資料の一部を公表しているだけだ。
 島田市の茶農家紅林貢さん(74)は「JRのいろいろな対応が欠けている。情報共有も不十分。地元に向き合って説明責任を果たしてほしい」と公開で対話を重ねるよう求める。
 (「大井川とリニア」取材班)

 <メモ>リスクコミュニケーション 合意形成に至る手段の一つで、関係者間で情報を共有し、対話や意見交換を通じて意思疎通を図ること。教育・啓発、行動変化の促進、信頼醸成、紛争解決など多様な目的がある。経済産業省はホームページで、事業者が情報公開と地域住民の声を聴く機会を日常的に作るのが肝心とし「過去の事例を見ても、情報を公開して(住民の)パニックが発生したことはほとんどない」と記している。

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