島田市版「ネウボラ」 担当保健師制3年目、母子支援で成果

 フィンランドの母子保健システム「ネウボラ」を参考に、島田市は、生まれてくる全ての子どもとその世帯に担当保健師を付ける「島田市版ネウボラ」に取り組んでいる。核家族化に加え、新型コロナの影響もあって育児に悩む保護者の孤立は大きな課題。妊娠期から保健師と顔の見える関係を構築する同市の実践例は、効果的な母子支援のヒントとなりそうだ。

出産を控えた妊婦と面談する担当保健師。母子手帳交付時から継続して支援する=11月下旬、島田市保健福祉センター
出産を控えた妊婦と面談する担当保健師。母子手帳交付時から継続して支援する=11月下旬、島田市保健福祉センター

 島田市は2019年度の母子手帳交付から担当制を開始した。市内を2ブロックに分けてリーダー保健師を置き、経験の浅い保健師もチームで支える。新生児訪問に加え、これまで生年月日で来所日を決めていた7カ月児相談、1歳6カ月児健診などの仕組みを見直し、常に担当保健師が母子や父親と顔を合わせるようにした。
 ネウボラを研究する大阪市立大大学院の横山美江教授(公衆衛生看護学)は「フィンランドでは妊娠したら病院ではなくまずネウボラを訪ねる。住民にとって保健師はとても身近な存在で相談しやすく、保健師は小さな変化にも気付きやすい」と特徴を語る。横山教授による島田市の保健師へのインタビュー調査では「困った時に母親の方から連絡が入るようになった」と予防的介入の効果を実感する声に加え「(対象者に)頼ってもらえ、やりがいを感じる」「積極性が生まれた」など、保健師自身の意識の変化も顕著に表れた。
 厚生労働省によると、20年度の児童相談所での児童虐待相談対応件数は20万件を超え、過去最多を更新した。被虐待者の年齢は0~6歳の就学前が約45%を占める。自治体の母子保健活動の多くは課題のある家庭を重点支援する「ハイリスクアプローチ」が中心だが、保健師の家庭訪問が特別視され、拒まれてしまうなどの課題も指摘されている。
 国は17年の母子保健法の改正で、市町村への子育て世代包括支援センター設置を努力義務とした。ネウボラのエッセンスを取り入れる自治体は増え、県内でも函南町が顔写真を使って担当保健師を紹介し、継続支援に取り組むなどの事例がある。一方、人口規模などの事情から、全国的には全世帯への担当制を導入する自治体は少ないのが現状だ。
 児童虐待に対応する島田市こども家庭室の担当者は「身近に相談できる体制が整い、虐待を未然に防いだり、解消を早めたりする効果があるのでは」と期待を寄せる。市は今後、母子手帳交付時に確実に顔合わせするため予約制の導入も検討している。“寄り添う支援”に奮闘する保健師の活躍がもっと身近になるよう、支援事例や効果を丁寧に検証し、広く発信してほしい。

いい茶0
あなたの静岡新聞 アプリ
地域再生大賞