店名はボブ・ディランの名曲から “社会派”のパン屋さん「one too many mornings」(磐田市)【記者さんぽ|個店めぐり】

 磐田市豊田西之島に、バイタリティーあふれる”社会派”のパン屋さんがあるとの情報を得て、ベーカリーカフェ「one too many mornings(略称・ワンモニ)」を訪ねました。後に紹介する”社会派”の由縁もさることながら、素敵な名前にひかれました。

北海道産小麦、天然酵母など素材にこだわっているパン
北海道産小麦、天然酵母など素材にこだわっているパン

 お店があるのは、県道261号沿いです。お店を営む大場俊明さん(54)と妻の千夏さん(44)にお話をうかがいました。
 気になっていた店名はボブ・ディランの名曲から。邦題は「いつもの朝に」。毎朝でも食べたくなるパンを作るという思いを表現したとのこと。開店のきっかけは、俊明さんのUターン。「静岡に移住しても美味しくて安全なパンを食べたい」と願う千夏さんのために、2013年に開店しました。素敵です。


photo01 大場俊明さん(左)と千夏さん

 Uターン前は都内でレゲエ音楽関係の仕事をしていた俊明さん。千夏さんはドキュメンタリーを中心とした映画関係の仕事をしていました。平和や政治へのメッセージを持つ側面のあるレゲエ。社会の事実を記録するドキュメンタリー。ワンモニのお店づくりの根底には、夫妻の経歴が反映されています。
 ワンモニを舞台に、フードロス削減、失職者の雇用創出、選挙の投票率向上、他団体とコラボしたワークショップ…。さまざまな社会活動に参加したり、企画したりしている夫妻。「小さなお店でも、できることがある」。2人がこれまでの活動に込めた思いを話してくれました。


photo01 お店の外観。太陽と鳥をイメージしたロゴマークが目印です

 全国のパン屋から売れ残りそうなパンを集めて再販する特設店「夜のパン屋さん」の取り組みにはこの秋(2021年10月)から参加しています。これは、ホームレスの自立を支える「ビッグイシュー日本」が、コロナ禍で職を失った人に向けた仕事づくりとフードロス削減のために始めた活動です。
 ワンモニで素材にこだわったパン作りをしているがゆえに、売れ残りのパンを廃棄することに日頃、胸を痛めていた大場さん夫妻。パンを冷凍して送れば磐田市からでも参加できると知り、参加を決めました。俊明さんは「弱者が置き去りになるという問題を、自分たちにも変える力があると希望を持てた」と話します。


photo01 パンは冷凍して都内に送る

 選挙の投票済証を持参した来店客の買い物代金を一部割引する「選挙割」は開店時から続けています。「投票率の低さがずっと課題になっている。入口は『得するから』でも良い。せっかく民主主義の社会に生きているのだから、政治と生活のつながりを1人でも多くの人に感じてほしい」。2人はそんな思いを込めています。
 店内のカフェスペースを使ったイベントにも取り組んでいます。夫のUターンに伴い移住した千夏さんは、静岡県は東京に比べて音楽などの文化を楽しめる場が少なく、都会を恋しく思うこともありましたが、開店にあたって「それならば自分たちで仕掛ければ良い」と発想を転換。数カ月に1回のペースでアーティストを招いたミニライブや映画上映会を行っています。「こっそりカルチャーを発信することが楽しみになった」と千夏さんは微笑みます。


photo01 カフェスペースには15席あります

 コロナ禍で店内のイベントは自粛していましたが、浜松市の書店とコラボした古本市など、感染対策をしながらのイベントも模索し始めました。「これからも安心して食べられる美味しいパン作りと、ちょっとした仕掛けづくりを続けたい」。2人は前を向いています。
<メモ>夜のパン屋さん 全国各地のパン屋から売れ残りそうなパンを集め、夜に別の場所で再販する取り組み。2021年11月現在、北海道から静岡までの17店がパンを提供している。県内からはワンモニの他、浜松市中区の「ラトリエ テンポ」が参加。実店舗はなく、集めたパンは都内の書店の軒先やマンションの駐車場などに特設店舗を設け、一般向けに販売している。ホームレスの人の仕事をつくり自立を支える会社「ビッグイシュー日本」が2020年の世界食糧デー(10月16日)に始めた。コロナ禍でこれまで仕事として提供してきた雑誌「ビッグイシュー」の路上販売が苦戦する一方で、生活苦の相談者が急増したため、生活に困る人のために新たに仕事をつくろうと始めた。食品ロス削減にもつながっている。女性や学生をはじめコロナ禍で失職した人などが、パン屋からパンを集める仕事、パンを販売する仕事などで収入を得ている。
 ※【記者さんぽ|個店めぐり】は「あなたの静岡新聞」編集部の記者が、県内のがんばる個店、魅力的な個店を訪ねて、店主の思いを伝えます。随時掲載します。気軽に候補店の情報をお寄せください。自薦他薦を問いません。取材先選びの参考にさせていただきます。⇒投稿フォームはこちら

いい茶0
あなたの静岡新聞 アプリ
地域再生大賞