土石流、遺族弁護団 盛り土現旧所有者の悪質性強調 殺人容疑で告訴受理

 熱海市伊豆山で7月に発生した大規模土石流で、起点の盛り土を含む土地の現旧所有者に対する殺人容疑の告訴状を熱海署が受理した6日、遺族側の弁護団は再三にわたる行政指導や同市の要請を無視して盛り土を造成、放置し続けた現旧所有者の行為が「故意の殺人に他ならない」と悪質性を強調した。
 旧所有者の不動産管理会社(神奈川県小田原市)が2007年3月に盛り土造成の届け出を熱海市に提出した際、市は災害防止措置を講じることや、災害発生時の補償を付帯条件に受理していた。
 これについて、弁護団共同代表の轟木博信弁護士は「災害防止措置が一切講じられなかった」と指摘。さらに「住民の生命と財産に危険を及ぼす可能性がある」と、市が再三にわたり土砂搬入の中止などを指導していたことにも触れて「危険性を明らかに認識していた」と主張した。
 告訴した遺族の一人で、夫(71)を亡くした小川慶子さん(71)は「あの日から時が止まったまま、現実が受け止められない。殺人罪が認められたとしてもむなしさが募るばかり」と悔しさをにじませた。母親(82)を亡くした鈴木仁史さん(56)は「現旧所有者の悪質性が許せない。警察の捜査を見守りたい」と語った。一方、娘(44)を亡くした小磯洋子さん(71)は「盛り土があることをほとんどの住民が知らされていなかったことも大きな問題」と行政の責任を指摘した。
 土地の現所有者の代理人弁護士は取材に、告訴状の受理は警察の義務で、起訴されるかどうかは別の話だと強調した上で「(現所有者に)未必の故意はなく、殺人罪は無理筋。ただ、捜査には全面的に協力する」とした。

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