大自在(12月5日)神の山、山の神

 〈いにしへの登呂村びとが仰ぎけむ富士の神やまはいまも空にそびゆ〉。静岡市の登呂遺跡近くの建物5階にある職場から、きのうも冠雪した霊峰がきれいに見えた。
 静岡市街地にも、富士山が驚くほど間近に見える観望スポットがある。県市町対抗駅伝フィニッシュの草薙陸上競技場もその一つ。きのうは、2015、16年の箱根駅伝の5区で活躍して「山の神」と称賛された神野大地選手(浜松市北部)が「神の山」を背にトップで競技場に入ってきた。
 箱根駅伝の往路最終区間の5区は、約16キロ山を上って標高874メートル付近の最高地点を過ぎると長い下りの難コース。神野選手は青山学院大3、4年時に任され、連覇に貢献した。
 冒頭の短歌は土岐善麿[ときぜんまろ](1885~1980年)の作。石川啄木を世に出したほか、全国紙勤務時の17年、競技として最初の駅伝を東京―京都間で企画し成功を収めた。第1回箱根駅伝はその3年後に開催された。
 この短歌は静岡市の歌人田中章義さんが著書「十代に贈りたい心の名短歌100」で取り上げている。登呂遺跡は太平洋戦争中に発見。戦後の発掘調査で日本の歴史は神話から科学的根拠に基づく史実に転換し、日本人に自信と復興への勇気を与えた。
 土岐には〈国破れていま掘り起こす登呂の跡いにしへにたどる時のちからを〉という歌もある。「戦後、再び日本の底力を思い返そうという思いを込め、登呂遺跡や富士山と向き合ったのでは」と田中さん。底力という言葉、浜松を拠点にパリ五輪を目指す神野選手の走りからも感じられた。

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