ネット時代 家庭の性教育どうすれば 有識者インタビュー①【賛否万論】

 日本の性教育は海外と比べ遅れていると指摘される。3歳からの性教育を勧め、国内各地で保護者向けの講座を開く「とにかく明るい性教育 パンツの教室協会」代表理事の、のじまなみさん(40)=東京都=に性教育の意義や家庭で進める上でのヒントを聞いた。

のじまなみさんは子どもの疑問に「いい質問だね!」と答える大切さを説いている。親のドキッとした表情を隠せる「魔法の言葉」という(著書「赤ちゃんはどこからくるの?」より)
のじまなみさんは子どもの疑問に「いい質問だね!」と答える大切さを説いている。親のドキッとした表情を隠せる「魔法の言葉」という(著書「赤ちゃんはどこからくるの?」より)
のじまなみさん
のじまなみさん
のじまなみさんは子どもの疑問に「いい質問だね!」と答える大切さを説いている。親のドキッとした表情を隠せる「魔法の言葉」という(著書「赤ちゃんはどこからくるの?」より)
のじまなみさん


3歳から性教育を


 ーなぜ、3歳からの性教育を提案しているのですか。

 ユネスコ(国連教育科学文化機関)の「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」では、性教育の開始年齢は5歳とされています。私がなぜ3歳からの性教育を訴えているかというと、今の日本はSNSとの関わりが当たり前の文化になっているからです。スマホは子育てに欠かせません。国の「ギガスクール構想」で小学1年生から1人に1台パソコンやタブレットが配られる時代。動画投稿サイトで好きな動画を見る中で、3歳児でも簡単に性情報にアクセスできてしまう世の中です。街中でも性的描写が広告として流れ、幼いころからアダルトコンテンツを見てしまっている。子どもたちが性を知る手段があること、また性被害に巻き込まれる可能性があることから、コミュニケーションが取れるようになる3歳からの性教育を勧めています。

 ー性被害の実態は。

 大人からの被害もあるし、表面化しにくいけれども幼稚園や保育園で子ども同士の被害も起きている。今はアニメの動画からでもアダルトコンテンツに行き着いてしまう。子どもたちに人気のアニメにアダルトコンテンツを反映している動画も多く、それらが子どもの目に触れてしまうことがあり、いたちごっこ。実際、私の娘たちも大好きなテレビアニメの動画を検索していたら行き着いてしまった。フィルタリングを掛けても、デジタル社会の中では完全に止める手段はない。何も分からない子どもたちを狙う、小児性愛者による犯罪被害の相談もとても多いです。

 

お風呂は話しやすい


 ー具体的にはどのようなことから教え始めるといいのでしょうか。

 まずは、お風呂で子ども自身がパンツを洗うことと、自分の体には大切な場所があることを伝える手段として「水着ゾーン」を教えることの2点です。お風呂は親子で話し合える環境。ママと息子なら体の違いも説明しやすい。なぜ子ども自身でパンツを洗うかというと、男の子は10歳ぐらいで精通が始まり、夢精で下着を汚すこともありますし、女の子は生理で汚すことがあります。昔なら友達との雑談で知り得た情報が今では得にくくなっていて、精液や経血を病気だと思ってしまうこともある。「あなたも将来、おしっこ以外で汚すことがあるよ」と教えていれば、その時になって子どもが汚れたパンツを布団に隠すようなこともなくなります。生理については「赤ちゃんのベッド交換だよ」などと声を掛け、命の仕組みを話し合うといいですね。

 ー水着ゾーンとは。

 口と、水着を着て隠れる場所を「水着ゾーン」と名付けました。「自分だけの大事な場所だから、他人に見せても触らせてもいけないよ。同じように、誰にも大事な場所があるんだよ」と教えます。命の誕生と親からの愛情、防犯を伝えることが性教育の基本。3歳の子にも10歳の子に対しても、伝えていることは実は同じです。交通ルールと一緒で、繰り返し伝えて習慣化させることが大切です。

 ーインターネットを介した性被害をどう防げば良いでしょうか。

 ネットを通じた出会いの機会や被害が増える中、防犯ブザーやGPSでは子どもを守り切れません。私たちが赤信号で止まれるのは何遍も家族や学校の先生から言われてきたから。性教育もしかりです。知識があれば第六感が働きます。被害に遭っても最小限にとどめることができ、二次被害を防げます。親は子どもと24時間いることはできず、「知識のお守り」を付けることでしか守れません。

 ー知識の有無が人生を左右することになるのでしょうか。

 今、女子中高生の8割が無月経傾向にあると言われています。ハードなスポーツや無理なダイエットで、生理が来ないことが当たり前の子どもたちが増えてきている。そうなると、いざ子どもが欲しいと思った時に妊娠しにくかったり、月経不順が続くと妊娠していることに気付きにくかったりします。子宮の機能は簡単には戻りません。正しい知識は子どものライフプランにも関わってきます。

 ー性教育は子どもの自己肯定感を高めることにもつながりますか。

 (国の調査では2020年度に)小中学生の不登校は19万人以上、小中高校生の自殺者は400人以上でともに過去最多です。コミュニケーションが簡素化し、コロナ禍もあって自己信頼や友人関係の構築が以前よりも難しくなっている。日本は物理的には豊かなのに、大人も子どもも心の満足度が低い。愛されている自信がないのです。「生まれてきてくれてありがとう」「あなたは愛される存在だよ」と言葉を掛けることも性教育。「どのタイミングで言えばいいか分からない」と言われたことがあり、「タイミングを計らないと言えないんだ」と衝撃を受けたことがあります。抱きしめられたことがない人は、抱きしめるタイミングが分からない。逆に「愛情貯金」が多い人は、いろんな人に愛を手渡すことも上手だし、愛を受け取ることも上手です。私は娘たちに毎日、源泉掛け流しのように「大好きだよ」と伝え、山ほどスキンシップを取っています。
 
 

「いい質問だね」重要


 ー愛情を言葉にできても、子どもからの性の質問にはドキリとしてしまう親は多いと思います。向き合う際のコツはありますか。

 ドキッとした時こそチャンスです。「チャンスはピンチの顔をしてやって来る」のが性教育です。10歳ごろまでは子どもの方からいろんな質問をしてくれたり、小ネタを提供してくれたりします。うんこ、ちんちん、おっぱいが大好き。「うんちが出る穴のほかに男の子には何の穴があると思う?」「女の子には膣(ちつ)と呼ばれる幸せの穴があり、赤ちゃんが生まれるよ」とたくさん話をしてあげることが大事です。子どもからの質問に嫌な顔をしないこと。気まずさって、親が出している。子どもは気まずさを感じると、親に質問しなくなります。だから、たとえピンチだと思っても「いい質問だね」と伝えることが重要です。すぐには答えられなくても「後で答えを用意するね」と言えばいい。「いい質問だね」と返すことで子どもは受け止めてくれたと感じ、親は拒否感や恥ずかしさを隠すことができます。

 ー学校の性教育をどう見ていますか。

 性教育を広めるためには学校教育と地域、家庭が三位一体にならないといけません。しかし、学校と地域は世界の性教育の水準からかなり遅れています。日本の学校教育は性を恥ずかしいものとしてアンダーグラウンド的な扱いをしている。学習指導要領には妊娠の経過は取り扱わないとする「歯止め規定」がある。だから教育現場では、デートDV(恋人間でのDV)の話をしたとしても性的なDVについてはぼやかしていて、断る権利を学べる機会にできない。性体験が低年齢化していたり、望まない妊娠といった被害が出たりしているのに「歯止め規定」を今なお活用している。この現状は早めに変えていくべきだと思っています。
 
のじまなみさん 1981年生まれ。「とにかく明るい性教育 パンツの教室協会」代表理事。防衛医大高等看護学院卒業後、看護師として泌尿器科に勤務した。各種メディアで積極的に性教育を発信し、全国各地で講演を続ける。娘3人の母親。

 次週の賛否万論も同じテーマで有識者インタビューを掲載します。

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