社説(11月25日)知事に辞職勧告 発言の重みかみしめよ

 首長の発言として品位を欠き、振り返るのもはばかられる。参院補選の応援演説で川勝平太知事が「あちらはコシヒカリしかない」「あちらは観光しかない。それしか知らない人間」と対立候補をののしり、地域の誇りを傷つけ、御殿場市民の反発を招いた問題。県議会は、「知事の適格性を欠く」として自民、公明の両党会派が提出した辞職勧告決議案を賛成多数で可決した。県政史上初だ。
 「良識の府」の一員となる国会議員を選ぶ選挙で、なりふり構わず「リニアの水問題こそ」と争点を先鋭化させた揚げ句の失言だった。川勝知事は辞職勧告に対し、改めて謝罪した。しかし、「職責を全うする」として辞職しない考えを表明した。
 首長と、首長を監視する議員の両方を直接選挙で選ぶ二元代表制において、県議会の議決は県民の意思表示でもある。法的拘束力のない辞職勧告であっても、極めて重い議決だ。知事は政務を控えると言うが、議会や県民の信頼回復の道のりは、極めて険しいと言わざるを得ない。
 県内では今年、ミニ統一地方選に加え参院補選、衆院選があった。もとより、多額の税金を投じて5カ月前に行ったばかりの知事選を再び実施することに、県民の理解が得られたかは疑問だった。
 応援演説は舌戦と称され、激化するのが常だ。仮に川勝知事が「相手陣営にも自分への誹謗[ひぼう]中傷があった」と感じても、自重すべきだった。「政治は言葉」と言われる。政治家が人々を鼓舞するのも、人心を束ねるのも、言葉が最大の武器になる。
 裏返せば有権者は、政治家の問題発言を、人としての資質があらわになったと受け止める。菅義偉前首相による日本学術会議新会員候補の任命拒否を巡り、川勝知事は「教養レベルが露見した」と述べた。早稲田大教授を経て英国オックスフォード大で博士号を修得した自身の経歴を踏まえれば、苦学生の菅氏を学歴で差別したと受け止められても仕方なかろう。
 また、知事は県議を「やくざ集団、ごろつきがいる」と罵倒した。知事が政治的に対立する県議にそうしたレッテル貼りをするなら、民主主義の根幹が揺らぐ。
 これらの発言を自民は問題視した。しかし、批判は大きなうねりにならず、川勝知事は知事選を大勝で勝ち抜き4期目だ。自民、公明の両党にとって辞職勧告の可決は前進だ。ただ、失言が資質の欠如だと声高に糾弾しても、資質を欠いた知事の失政をただす第2、第3の矢を放つことができないから、知事選の連敗があると指摘したい。
 川勝氏が初当選した2009年の知事選は、政権交代による旧民主党政権誕生への熱気の中で執行された。
 投開票日の翌日、当時の小楠和男自民県連幹事長は「敗北の責任を取る」として三役辞任を表明した。党再生に妙案は無く、沈黙が続く会派の会合でベテランの大石哲司氏(故人)は「自民党は死んだ。はい上がるしかない」と大声で皆を鼓舞した。
 自民は知事に対する路線対立で分裂し、対決姿勢を鮮明にした新会派「自民改革会議」が誕生した。定例会の代表質問で小楠氏は「自民党は知事野党になった」と宣言し、改革会議は是々非々の論戦を挑み続けた。自民はいまこそ、「改革」の名の会派を誕生させた当時の大志を自問すべきではないか。
 一方、県議会で川勝知事を支える会派ふじのくに県民クラブにも失言問題に応分の責任がある。「知事与党」には、真っ先に知事に自省を求める役割があったはずだ。
 各会派は多数派工作や結束の確認に時間を費やした。首長の不信任や辞職勧告に対しては、議員一人一人が良心に従って賛否を明らかにする選択肢もあった。政局一辺倒なら県民の信頼を損ない、県議会も痛手を被る。

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