しずおか連詩の会2021 言葉紡ぐ5人、思いや抱負は

 「しずおか連詩の会」(静岡県文化財団、浜松市文化振興財団、県主催、静岡新聞社・静岡放送共催)が12月9~12日、浜松市で開かれる。前年に続き新型コロナウイルス禍の中での開催となる22回目の今年は、9~11日の3日間で5人の詩人や歌人、俳人らがリレー形式で40編を創作する。12日に同市中区のアクトシティ浜松音楽工房ホールで発表する。詩人の野村喜和夫さん(本紙読者文芸選者)がさばき手(まとめ役)を務め、詩人の四元康祐さん、歌人で作家の東直子さん、俳人の高柳克弘さん=浜松市出身=、第25回中原中也賞に輝いた詩人水沢なおさん=長泉町出身=が言葉を紡ぐ。参加する5人が連詩への思いや抱負を寄せた。

 

 ■贅尽くした特別な場 詩人 野村喜和夫さん
 今年もまたやってくる。年中行事という意味ではない。連詩はそのつどの多数多様体である。連衆が変われば連詩も変わるが、同じ連衆でも、二度と同じ連詩は作れない。それはまるで、宙を漂っていた何兆個もの原子が、精緻かつ絶妙な連携ぶりで集まって、私たちひとりひとりの生命を作っていくのにも似て、過去に一度も試みられたことがなく、今後もこの一度きりしか実現できないところの、贅[ぜい]を尽くした特別な言葉のイベントなのである。
 さて今年は、すでに連詩のベテランと言っていい詩人の四元康祐さんと、短歌と俳句という隣接ジャンルを代表する歌人の東直子さんと俳人の高柳克弘さん、そして詩界に新風を吹き込んでいる中原中也賞詩人水沢なおさんという連衆構成だ。私はといえば、彼らとの3日間によって、去年とはまた違う私に生まれ変わる。幸運というほかない。




 のむら・きわお 詩集に『風の配分』(高見順賞)『ニューインスピレーション』(現代詩花椿賞)『ヌードな日』(藤村記念歴程賞)『薄明のサウダージ』(現代詩人賞)『花冠日乗』、評論に『移動と律動と眩暈と』(鮎川信夫賞)など。

 
 ■世代超え 道開きたい 詩人 四元康祐さん 
 詩を書き始める時、いつも書くことは何もないかと思えるのですが、何か一つでも外から声をかけられると、それに応える言葉がどこからともなく湧き出してきます。詩とは私にとって、なによりも他者との関わりにおいて存在するのかもしれません。
 しずおか連詩に参加するのはこれが4回目ですが、今回はとりわけ歌人、俳人、そして若い世代の詩人とご一緒できるのが楽しみです。長引くコロナの日々のもと、内にこもって鈍りがちな自分の言葉を、太平洋から吹いてくる清冽[せいれつ]な潮風と、燦燦[さんさん]と降り注ぐ陽光に晒[さら]してやりたいと思っています。
 宗匠の野村喜和夫さんからは、現代詩の最先端の成果を盗み取りたい。自分一人では手も足もでない難関でも、誰かと一緒ならば必ず道が開けてきます。連詩は他力の詩学です。



 よつもと・やすひろ 詩集に『フリーソロ日録』、小説に『前立腺歌日記』、訳書に『月の光がクジラの背中を洗うとき -48カ国108名の詩人による連歌』『ホモサピエンス詩集』など。昨年春、34年ぶりにドイツから帰国したところ。

 
 ■分断の時代こそ融和 俳人 高柳克弘さん 
 江戸時代には五七五を単独で作るよりも、むしろグループで制作する「連句」のほうが盛んでした。一つの作品をみんなで力を合わせて作ることで、互いが刺激し合い、予期しない作品が生まれます。
 イアン・マキューアンのSF小説『恋するアダム』では、AIが俳句を作ります。彼は、誤解の文学である小説はやがて亡[ほろ]び、融和の文学である俳句こそが未来に残るというのです。そんな未来が来るかどうかは別として、分断の時代にこそ、融和の文学が意味を持つのだと思います。
 連句から生まれた「連詩」の試みの中で、参加者は時に快哉[かいさい]の声をあげ、時に行き詰まって頭を抱えることでしょう。その過程で、強烈な個性を持つ参加者同士の融和が起こり、その場面をまのあたりにした観客の皆さんとも、心の融和が起こっていくはずです。



 たかやなぎ・かつひろ 1980年、浜松市生まれ。読売新聞朝刊KODOMO選者、俳句結社「鷹」編集長。句集に『未踏』(第一回田中裕明賞)、『寒林』。近刊に評論集『究極の俳句』、児童文学『そらのことばが降ってくる 保健室の俳句会』。

 
 ■響き合う「偶然」喜び 歌人・作家 東直子さん
 日々は偶然の瞬間の積み重ねで、その後にできる影を踏み続けて進んでいるように思う。偶然出会い、近づき、言葉を交わし、また遠ざかる。ずっとそれを繰り返してきた。そうして生まれては消えていく偶然の影は、喜びや悲しさや虚[むな]しさなど、複雑な感情をもたらしては消えていく。しかしときに言葉が、消えない影となることがある。
 共同で詩を作る「しずおか連詩の会」は、意図的に「偶然」を提供してくれる会でもある。さまざまなタイプの素晴らしい言葉の使い手と感性を響かせて詩を編むためだけに集まる。こんなにありがたくてうれしくてエキサイティングなイベントはない。7年前に参加したときにそう思ったし、今回再びお声がけいただいて、さらに強くそう思った。静岡の透明な空気とともに、希有[けう]な偶然をこの世に言葉で繋[つな]ぎ止め共有する喜びを刻みたい。



 ひがし・なおこ 広島県生まれ。第7回歌壇賞、第31回坪田譲治文学賞受賞(『いとの森の家』)受賞。歌集『春原さんのリコーダー』『青卵』、小説『階段にパレット』、エッセー集『愛のうた』、入門書『短歌の詰め合わせ』など。

 ■まだ見ぬ景色心待ち 詩人 水沢なおさん 
 わたしは長泉町で生まれ育ちました。「しずおか連詩の会」の創始者である大岡信さんの出身地、三島市のちょうど隣町です。
 残念ながら現在は閉館してしまいましたが「大岡信ことば館」に足を運んだこともあります。ちょうど詩を書き始めたばかりの頃で、言葉がさあさあと降り注ぐような展示室の中、呆然[ぼうぜん]と立ち尽くしていました。その時は、詩人としてこれほどまでに光栄な未来が待ち受けているとは、夢にも思いませんでした。
 詩を書くときはいつも一人です。自分以外の誰かと、それも偉大な先輩方と、詩を編んでいくことの緊張と大きな喜びに打ち震えています。静岡という地で育った詩人として、県内のそこここを流れる川のように、泉のように、海のように、姿かたちを変えながら、まだ見たことのない景色へ辿[たど]り着きたいと思います。



 みずさわ・なお 1995年、長泉町生まれ。武蔵野美術大在学中より詩作をはじめる。2016年、第54回現代詩手帖賞受賞。19年、第1詩集『美しいからだよ』。20年、第25回中原中也賞を受賞。

 ■12月12日 アクトシティ浜松で発表会
 完成作品を5人が朗読、解説する発表会は12月12日午後2時から、浜松市中区のアクトシティ浜松音楽工房ホールで行う。全席自由1000円。
 問い合わせはグランシップ<電054(289)9000>へ。グランシップのウェブサイトなどからも購入できる。
 9~11日の創作期間中は、SNS(会員制交流サイト)を活用し詩40編を速報する。

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