設備の維持、国も担保を 湧水戻しで流域注文【大井川とリニア 第7章 “国策”の採算性㊦】

 「トンネル湧水をポンプでくみ上げて大井川に戻すというが、恒久的に戻すことをどう担保するのか」。9月18日、静岡市葵区で開かれた大井川流域市町の首長とJR東海の金子慎社長による初の意見交換会で、牧之原市の杉本基久雄市長が金子社長に問いただした。新型コロナウイルスの影響で鉄道需要が打撃を受けていることを念頭に、リニア中央新幹線の採算性についての説明を強く求めた。

初の意見交換会に参加した金子慎社長(奥)と大井川流域の首長ら=9月18日、静岡市内
初の意見交換会に参加した金子慎社長(奥)と大井川流域の首長ら=9月18日、静岡市内

 リニア南アルプストンネルでは工事中も工事が終わってからも、県内で発生するトンネル湧水を持続的に戻さなければ大井川の流量は減少する。JRは貫通後に関しては、導水路トンネルや大型ポンプ設備を設けて「安定的かつ恒久的に大井川に流す」と説明している。電気代やポンプの修理など膨大な維持管理費がかかるとみられるが、その費用は具体的に示されていない。
 杉本市長は取材に「(JRが)もうからなければ永久的にポンプアップし続ける費用は捻出できない」と指摘する。意見交換会で「(リニアは)もうけるための事業ではない」と回答した金子社長に不信感をにじませ、「採算性の話抜きに安心できない」と語気を強めた。
 コロナ禍による経営悪化に対し、JRはコスト削減や新たな観光プラン予約サービスなどの増収策を打ち出している。新たな需要を生み出す方策については、流域の一部から「新幹線駅と直結する空港は国内にはなく、静岡空港に新駅が完成すれば羽田や関西空港の代替としての需要も生まれる」との意見も出ている。
 増収の努力は必要だが、コロナを踏まえた東海道新幹線とリニアの「一元経営」で採算が取れるのかは不透明だ。リニアの建設費を含め将来的な維持管理費は莫大(ばくだい)になる。交通経済学を専門とする関西大の宇都宮浄人教授は、こうしたコストを考えると「本来なら一企業が取り組める規模のプロジェクトではなく、コロナ後も以前ほど潤沢に資金があるかは分からない」とみる。民間事業でありながら“国策”ともされることを指して「国を含めて大きな方向性を示す必要がある」と指摘。今後の整備や維持管理について、場合により国が資金援助する必要性にも言及する。
 流域からも国の支援を求める声は挙がる。11月7日、南アルプストンネル工事が予定されている大井川源流部を視察した菊川市の長谷川寛彦市長は、県職員時代に水道事業に携わった経験から「実際に現場を見て、地下のポンプ設備の維持管理に関する懸念は増した。24時間365日、未来永劫(えいごう)、管理が必要だからこそ採算性が大事。国家プロジェクトとされるなら国の関わりも求められる」と訴える。杉本牧之原市長も、国交省専門家会議で取り上げる水資源の問題と同様に「採算性も国による検証が必要では」と主張している。
 (「大井川とリニア」取材班)

 <メモ>ポンプアップでトンネル湧水を戻す方法 静岡県内のトンネル区間で湧き出た水は標高の低い山梨、長野両県に流れ下る。JR東海は、県外への流出を防げない貫通前を除き、トンネル湧水を坑内のプールに1度ため、電動のポンプでくみ上げ、大井川に戻す計画だ。国土交通省専門家会議では、地震などの大規模災害で停電したり、ポンプが故障したりした場合に「予備電源・設備を確保してリスクを回避する」と説明している。同社が存続できなくなる場合を想定した対応には触れていない。

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