旅行再開、努力が水の泡では? 新型コロナのなぜ㊦【NEXT特捜隊】

地域をまたぐ移動とリスクの関係
地域をまたぐ移動とリスクの関係

 新型コロナウイルスに関する二つ目の疑問は、富士宮市の高校3年咲希さん(18)から届いた。「緊急事態宣言下で県民は行動を自粛し、事業者は時短要請に従ったのに、修学旅行や遠足で県外へ行こうとする学校が増えている。せっかくのみんなの努力が水の泡にならないか」
 コロナ下、日常のさまざまな場面で「自粛」が当たり前になったが、その目的は何か。3人の感染症専門医の助言を基に、まず感染対策の考え方を整理した。
 感染症対策の根底には「バンドル(束)」という概念がある。一つ一つの対策をばらばらに行っても効果は限定的。複数の対策を一気に実行して病原体の広がりを食い止め、早期収束を目指す。
 コロナに有効な対策は五つ。効果はワクチンが圧倒的で、あとはマスク、換気、身体的距離、手指衛生だ。
 自粛は、重症者の増加と医療の逼迫(ひっぱく)を抑えるために、身体的距離を徹底する手段にすぎない。荘司貴代医師は「やりたいことを安全にやるために、五つの対策をする。目的を見失わないで」と呼び掛ける。
 ただ、いつ、どの程度、自粛から再開へかじを切るのか。個々人が判断に迷うことはあるだろう。倉井華子医師は「社会の動きと流行状況を見ながら、少しずつ緩和を試していくしかない」と話す。
 移動のリスクについて倉井医師は「人が動くだけで感染が広がるわけではない。居住地と行き先、それぞれに感染者がどのくらいいるかが関係する」と説く。
 その前提で矢野邦夫医師は「新規感染者が少ない今は、旅行をしてもいい」との意見だ。荘司医師は「80年生きるとしても、高校時代は人生のわずか4%しかない貴重な時間。今しかできないことを早く再開しよう」と促す。
 一方、咲希さんは、移動が盛んになれば、再流行を招くのではないかと心配している。
 3人の医師は、再流行の可能性は「ある」と答えた。しかし、第6波が来ても、死者や重症者の数は第1~5波の各ピーク時を超えることはないだろう-との見方で一致する。
 医療者と研究者が一丸となって目指すのは、ワクチンで集団免疫を獲得し、感染しても重症化する人が減り、重症化すれば入院して適切な治療が受けられる状態。国民の7割以上が接種を終え、治療薬が使えるようになった。年内には飲み薬の供給も始まる見込みで、着実に目標に近づいている。
 矢野医師は「今はまだ五つの対策を続ける必要があるが、不要になる日は近い。国民が3回目のワクチン接種を終える来夏が一つの目安」と展望を示し、こう付け加えた。「コロナにかかっても、風邪をひいただけと済ませられるようになる。皆さんが感染を恐れなくなったその時が、収束の時」

 回答者
 矢野 邦夫(やの・くにお)氏 浜松市感染症対策調整監、浜松医療センター感染症管理特別顧問
 倉井 華子(くらい・はなこ)氏 県立静岡がんセンター感染症内科部長
 荘司 貴代(しょうじ・たかよ)氏 県立こども病院感染対策室長

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