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特集 : こち女

叱らず比べず 育てよう子の主体性 アドラー心理学から学ぶ

 新型コロナウイルス禍で将来の予測が一層困難になった時代を子どもたちが生き抜くために、子育て家庭はどんな力をどう育てればいいのだろう。学校現場と「勇気づけ」の心理学とも呼ばれる「アドラー心理学」について詳しい元島田市立小学校長から学んだ。(加藤愛己)

子どもたちは新型コロナウイルス禍で一層将来予測が難しい時代を生きるとされる
子どもたちは新型コロナウイルス禍で一層将来予測が難しい時代を生きるとされる

 

失敗をワクワクして待つ


 「失敗するのをニヤニヤ、ワクワクして待つのよ」。元小学校長の内田育子さん(66)は島田市教委主催の講座で、乳幼児や小学生の子を持つ保護者に熱く語り掛けた。
 デジタル化やグローバル化、超高齢化、気候変動に、新型コロナウイルス禍が加わり、日本の社会や学校は大きく変わろうとしている。子どもたちにますます求められる力は主体性、そして「失敗を恐れない心」という。いずれも自立し、自分に自信を持って生きる上で必須の要素だ。
 

怒ったり、他者と比べたりしない


 アドラー心理学はオーストリアの精神科医アルフレッド・アドラーが提唱した。欧米では有名で、国内も一部の人には知られていたが、2013年の「嫌われる勇気」(岸見一郎、古賀史健著、ダイヤモンド社)出版を機に広まった。
 同心理学に基づく子育ては「勇気づけ」という技術を用いて、「自立」、他者と信頼関係を築く「社会性」、両者の土台となる「自己受容」(ありのままの自分を受け入れる)の三つを育てることを目標とする。叱(怒)ったり、他者と比べたりはしない。
  photo01 「勇気づけ」について語る内田育子さん=島田市内  

「勇気づけ」与えられた人の心は折れない


 「『叱らない』で大丈夫ですか。叱られた経験がないと、打たれ弱い大人になるのでは」。保護者の一人は内田さんに不安を吐露した。自身が「叱らない」両親に育てられ、社会に出てから職場で叱られて心が折れそうになった経験があるという。
 内田さんによると、子どもが何か失敗した時、親に叱られてその場で行動を改めるのは単に「怒り」が怖いからというケースが多い。それでは適切な行動を学ぶ機会を逃し、同じ行動を繰り返す。怒りは激化し、子どもは親の顔色をうかがうようになる。「自立」からは程遠い。
 内田さんは「困難に直面して心が折れそうになるのは当たり前。でも勇気づけを与えられてきた人は実際には折れない。しなやかに対処する」と強調。主体性と失敗を恐れない心の育て方を伝授した。
 

何でも体験させ 主体性を育てる


 主体性とはその時々の状況に応じて自分が何をすべきか考え、自分の意思で決断し、行動できる力。主体性を育てるにはまず、自分や他者の心身の危険にかかわること以外、子どもに何でも体験させる。体験させれば、自己決定を迫られる場面に出合うからだ。親は「あなたはどうしたいの」と問うといい。
 例えば洋服選び。幼児の場合、親が2択に絞るのも手。子どもが選んだら、上下の色柄がちぐはぐと感じても、こう勇気づけを与える。
 「自分で決めたね」
 結果より、自己決定に注目して、共感するのが重要だ。子どもは自分への自信が高まる。
 主体的に行動すれば、失敗する場面もある。内田さんは「失敗は学び時。失敗してもへこたれず、納得するまでやり遂げる、失敗を恐れない心こそ勇気づけで育てたい」と説く。
 例えば鉄棒の逆上がり。小学校で練習してもうまくいかない時。最初に「悔しいね」と気持ちに共感する。その上で勇気づける。
 「よく挑戦しているね(ナイストライ)」
 自分で考えて挑戦を続けたり試行錯誤したりした努力の過程に注目して、共感する。
 続けて「これからどうしようと思う?」と未来に目を向けさせる。同じ練習もよし、別の方法に転じるのもよし。選択肢はあると気付かせたい。過去は変えられないが、未来は自分の意思で変えられる。
 最後に「もしよかったら相談してね」と言い添えて、困ったら相談できるという親子の信頼関係を築く。子どもは安心して失敗できる上、将来、困難に直面した時も周囲を信頼して助けを求められる。
 

一歩が踏み出せない時は?


 行動するための一歩が踏み出せない場合はどうするのか。内田さんは「小学生に『成長のさなかにあるんだから、不完全で当たり前』と伝えたら、納得していた」と振り返る。
 親もわが子は不完全と認識し、他者とは比べない。わが子の過去と現在の変化をよく見て小さな成長に注目し、「(○○が)できているね」と勇気づけ、いつも子どもの「安全基地」となるよう努める。
 さらに、学校とは失敗しても粘り強く取り組む力をつける練習の場所と伝える。子どもは「ありのままの自分でいい」と自己受容でき、安心して一歩踏み出す。
 「シャワーのように勇気づけを与えられた子どもは勇気づけの方法を覚え、自分で自分に勇気づけを与えられる」と内田さん。心が折れそうなほどの困難に直面しても、自分の小さな成長や努力の過程に注目して「いいね」と言い、目標に向かって乗り越えるという。
  photo02 楽しそうに学ぶ保護者=島田市内  

視点変えて 短所を長所に


 小さな成長などに注目して共感する以外にも勇気づけの方法はあるという。一つは物事を違う視点で捉える「リフレーミング」。例えば短所とされる「心配性」も、視点を変えれば「慎重」という長所となる。
 島田市内の主婦蒔田亜紀さん(38)は小学生の娘が宿題を終えていないのに、長くおしゃべりしながら食事することに困っているが、「食事を味わってくれて、話もたくさん聞ける」とリフレーミング。「視点を変えたら、娘の行動をうれしく思えた。『もっと聞かせて』と勇気づけたい」と喜ぶ。
 もう一つは「アイ・メッセージ」。「私は」を主語にして自分の感情を相手に伝え、行動を促す。
 主婦大橋梨沙さん(31)は2歳の娘がお手伝いでコップを運ぼうとして中身をこぼすと、「ママがやるよ」と手を出してしまう。「これからは『私は、両手で持つとかっこよく運べると思うよ』と娘を勇気づけたい」と笑顔で話した。
 

生きる力 教育現場も重視


 2020年度の小学校を皮切りに本格的にスタートしている新学習指導要領は、グローバル化や技術革新が進み、予測困難な時代の中で子どもたちには自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、自ら判断して行動し、よりよい社会や人生を切り開いていく力(生きる力)が求められるとしている。
 教育課程全体や各教科を通じ、実際の生活で生きて働く「知識及び技能」、未知の状況にも対応できる「思考力、判断力、表現力など」、学んだことを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力、人間性など」の三つの力を育む。
 

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