追っかけわたしの特集

特集 : こち女

同じやかんでお茶を【こち女ボイス】

 「薬缶[やかん]だって、空を飛ばないとはかぎらない。」――詩人でフランス文学者の故・入沢康夫さんの詩「未確認飛行物体」には夜ごと台所を抜け出し、砂漠に一輪咲いた花に水をあげにいくやかんが登場します。注ぎ口が壊れたわが家の古いやかんを買い替えようかと迷うたび、この詩が頭に浮かんでちゅうちょします。
 空を飛ぶ、とまではいかなくても、宙を舞うやかんは見掛けたことがあります。20年近く前、取材に通っていた市議会の委員会では、ラグビーのテレビドラマをほうふつさせる大きなやかんが使われていて、発表を終えた委員に回すのが習慣でした。議論が白熱し険悪に見える場面でも、論敵ののどを潤すため、委員の手から手へひょいひょいと渡っていく様子が印象的でした。
 弊社の食堂ではまだやかんが活躍していますが、最近の会議や集会などではペットボトルの飲料が個々に用意されるのが常です。新型コロナウイルス禍も相まって、同じやかんの茶を飲みながら互いに意見を言い、聞く機会が減っていることを残念に思います。
 (南部貴子)

いい茶0

こち女の記事一覧

他の追っかけを読む