社説(10月23日)社会保障政策 財源論じて将来像示せ

 有権者が重視する年金、医療、介護などの社会保障政策は、少子高齢化もあり課題が山積している。支え手である現役世代の負担は重くなるばかりで、不安が増す。選挙戦では、財源を含めた社会保障制度の具体的な将来像を示してほしい。
 社会保障の給付は2018年度の120兆円から25年度には140兆円に増える。65歳以上の高齢者人口がピークを迎える40年度は190兆円あまりになると推計される。
 各党は国民に「痛み」を伴う政策を語らず、明確な財源確保策を示していない。新型コロナウイルスの感染拡大で日本の財政は悪化し、借金は過去最高の1220兆円超となった。国債発行を当てにして財源の議論を後回しにするなら、若い世代への「つけ」が膨らむだけだ。
 自民党は公約に「持続可能な全世代型社会保障の構築」を掲げる。年金水準確保や子育て支援、介護人材の処遇改善を訴えるが、具体策には乏しい。
 立憲民主党は「高齢者医療制度の抜本的な改革を行う」とするが、中身は高所得者に負担増を求めるぐらいだ。
 コロナで傷ついた経済の再生に向け、大半の野党は消費税率の引き下げや廃止を公約とした。だが、岸田文雄首相は「消費税は社会保障の財源として、触れることは考えていない」と税率10%の維持を強調する。
 消費税を5%に減税した場合、13兆円程度税収が減る。社会保障費などの財源について立民、共産両党は法人税の増税に触れるが、大半の党は国債発行で借り入れるとしている。
 旧民主党政権時代、旧民主、自民、公明の3党合意による「社会保障と税の一体改革」で消費税を8%から10%に上げる際に増税分を社会保障に使うこととなった。だが、自民党政権は4年前、国の借金返済を先送りし、少子化対策などに充てる使途変更をした。消費税が社会保障の財源として機能しているかのチェックも忘れてはいけない。
 22年には団塊の世代(1947~49年生まれ)が後期高齢者となる75歳になり始める。総務省の推計によれば、2018年の75歳以上の人口は1798万人で団塊の世代が全て後期高齢者となる25年には2180万人と382万人増える。現役世代は少子化で減り続ける。医療費、介護費が膨張していくことは明らかで、社会保障費の逼迫[ひっぱく]度合いは加速する。
 給付が現役世代に少なく、高齢者中心だった社会保障制度を見直し、切れ目なく全ての世代が公平に支え合う「全世代型社会保障」の構築を目指した政府の検討会議は、昨年末に最終報告をまとめた。
 従来の75歳以上の医療費窓口負担は現役世代並みの収入がある人は3割で、その他は原則1割だった。単身の収入200万円以上(複数人の世帯合計なら320万円以上)の人を2割負担とする改革で、6月に関連法改正案が成立した。
 ただ、2割負担の対象は所得上位30%にとどまる。高齢者への負担増には限界があり、医療費の抑制効果は限定的といえよう。社会保障制度は支える人と支えられる人が安心して生活できる給付と負担のバランスが求められる。長期的な視野を持ち、制度のより一層の改革が必要だ。
 岸田首相は所信表明で、コロナ禍で困窮した非正規労働者、子育て世代への給付金支援に取り組む決意を示した。「低所得者を対象に年12万円給付」とした立民など野党もこぞって生活困窮者への現金給付を訴える。だが、規模を争うだけでは、対立軸は見えづらい。
 給付だけにとどまらず、社会保障の支え手を増やすためにも、就業希望者に多様な働き方ができる環境を整備することが必要だ。将来のビジョンはあるのか。しっかりと見極めたい。

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