「親ガチャ」を嘆かれたら 有識者インタビュー①【賛否万論】

 自分の親を自分で選べない現実をカプセルトイやゲームのアイテムなどを抽選する仕組みに例えた造語「親ガチャ」。親が聞いたらドキッとしてしまう一方、自分の置かれた境遇をうまく例えてくれた表現として心に刺さる人も少なくないようです。多くの家庭貧困対策や教育支援に携わる静岡市の独立型社会福祉士の川口正義さん(64)に、この言葉の背景を分析してもらい、私たちに必要な対策や心構えなどを聞きました。

川口正義さん
川口正義さん
「てのひら」の居場所で、ボードゲームを楽しむ子どもと学生ボランティア=静岡市駿河区
「てのひら」の居場所で、ボードゲームを楽しむ子どもと学生ボランティア=静岡市駿河区
居場所の閉鎖時、学生ボランティアが子どもたちに向けて書いた手紙
居場所の閉鎖時、学生ボランティアが子どもたちに向けて書いた手紙
川口正義さん
「てのひら」の居場所で、ボードゲームを楽しむ子どもと学生ボランティア=静岡市駿河区
居場所の閉鎖時、学生ボランティアが子どもたちに向けて書いた手紙


 ―「親ガチャ」という言葉が話題になる背景をどう分析しますか。
 子ども7人のうち1人が貧困状態とされる現代で、苦しい現実を親や家庭を選べない不合理さに重ね合わせたのでしょう。生まれる家庭環境は運任せで、ゲームの初期化設定のように人生は戻せない。誰からも救いの手はなく、努力しても無駄-といった、社会に対する喪失感や人生への諦めといった若者の心象風景が現れていると感じます。冗談やギャグのつもりで親ガチャを使う人が大半かもしれませんが、言葉の背景を突き詰めて考えると、社会支援や教育現場が機能不全に陥る寸前であると危機的な見方もできます。この言葉に不快感を抱く親世代もいると思いますが、社会問題の提起と捉え、面白おかしく言葉だけが独り歩きするのは避けるべきです。

 ―言葉が独り歩きするとは。
 言葉の本質的な意味が理解されず、イメージだけで乱用されることです。例えば、1990年代に広まったアダルト・チルドレンは、子ども時代に家庭内トラウマ(心的外傷)によって傷つき、成人になっても生きづらさを抱え、自己喪失感や孤独感に苦しんでいる人を指します。しかし、日本では当時「大人になっても幼稚な人たち」という文脈で使われました。親ガチャは言葉の響きが良く、○○ガチャといったように応用が利くため、SNS上でさらに拡散する可能性があります。親ガチャは抑圧的な側面も伴わせているので、場面によっては本当に苦しんでいる人々を傷つける二次被害が懸念されます。

 ―言葉を使わない方が良いでしょうか。
 いいえ。社会状況を反映した流行語は必ずしも弊害だけではありません。言葉が世に浸透し、後から社会的概念が認知され、結果的に啓発につながることもあるからです。ひと昔前は、家庭で夫が妻に暴力を振るう行為を夫婦げんかとして片付けていましたが、「ドメスティックバイオレンス(DV)」という言葉が広まったことで暴力という社会認識に変わりました。親ガチャの言葉の奥にどんな問題が潜んでいるのか想像し、社会対策を考えることが大人の役割です。

 ―親ガチャの奥にどのような問題があると考えられますか。
 貧困や虐待の世代間連鎖です。私は静岡市内で小学1年から高校3年生を対象に、計6カ所の居場所で学習や生活支援活動に取り組んでいます。日常生活で満足に食事や入浴ができない境遇の子どもたちの家庭環境を見ると、保護者も同様に貧困や虐待で苦しんでいることが多いです。負の連鎖を断ち切るには家族全体のサポートが必要ですが、国のセーフティーネットが機能しているとは到底思えません。生活保護制度の捕捉率は2~3割で、必要な支援が国民に行き届いていない上、子どもの貧困対策に関わる国の予算は僅少。行財政負担を理由に、児童手当の支給額が削減されるなど、生活基盤保障が不十分であり暮らしは厳しさを増しています。当然、悪循環から抜け出せないので、若者が世の中をガチャと表現したくなるのも理解できます。

 ―学校の役割は重要ですか。
 学校生活は児童生徒の心身不調といった異変が現れるだけでなく、家庭の中に居場所を失った子どもが最初にSOSを求める場です。学校が各家庭環境の状況を把握し、異常があれば迅速に個別対応するのが望ましいでしょう。しかし、最近は現場の多忙化が原因で家庭訪問を縮小、廃止する教育委員会や学校が増えています。個人情報保護を理由に各機関や地域と情報共有が進まないなど、顔の見える関係が築きにくくなっているのが実態で、潜在的な虐待や貧困問題を発見しにくい状況と言えます。

 ―学校はどんな対策をすれば良いでしょうか。
 福祉的施策やスクールソーシャルワーカー(SSW)などの福祉人材を増やし、支援が必要な児童生徒のニーズを掘り起こす体制を整えるべきです。私は静岡市のSSWとして、学校が各行政機関や民間団体と連携したプラットフォーム化を進めています。公的機関の児童相談所は法的な枠組み内での動きを余儀なくされており、子どもの一時保護しかできませんが、民間は家族を含めて中長期的に支援できるなど柔軟性が強みです。今後はSSWなどを小中学校だけでなく、幼保・子ども園から高校、大学まで連続的に配置し、教育現場に福祉的視点を積極的に取り入れていくべきでしょう。

 ―他に川口さんが支援活動で大切にしていることは。
 近年、学校や社会は型に当てはまらない人を排除する傾向が強まり、子どもの主体性が失われていくことを懸念しています。子どもに物事を判断する機会を保障し、自己肯定感を高めることを意識しています。ささいなことで構いません。生活支援のための居場所「てのひら」(市内3カ所)は週1回、学生と社会人ボランティアの協力を得て活動していますが、座る場所から何をして遊ぶかまで、全て子どもたちに決定権を与えています。自然と主体性や協調性が芽生え、利用者の中には福祉大学に通いたいなど明確な目標を語る子どもが増えました。たとえ子どもが試し行動をしようと社会的逸脱行動に至っても、まずは受けとめ、子ども自身から学ぶことが大切です。

 ―日本の将来は明るいでしょうか。
 親ガチャという言葉が生まれた背景は炭鉱現場で酸素切れのカナリアが鳴くように、子どもたちがこの国の行く末を危険だと警告しているからです。政治家は経済株価が上昇したと成果を強調していますが、足元で苦しむ国民の声に耳を傾けているでしょうか。企業も社会的使命を果たす必要があります。私たちは親ガチャを格差社会への抗議と捉え、少しずつ誰もが夢に向かって挑戦できる社会を目指さなければなりません。5年後、10年後を見据え、今から始めるのです。

 川口正義さん 1956年、静岡市生まれ。東海大、東北福祉大卒。児童養護施設に勤務。インドのマザーテレサの施設などでボランティアを経験した。現在は独立型社会福祉士として相談室を主宰。静岡市教委などでスクールソーシャルワーカーを務める。一般社団法人「てのひら」代表理事。
 
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