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特集 : こち女

新型コロナ「子どもの感染対策」転換期 保護者/保育士/医師/行政担当者が座談会「行き過ぎた対策 今こそ見直すべき」

 新型コロナウイルスのデルタ株が流行した「第5波」は保育・教育現場の警戒感がかつてなく高まりました。「心を鬼にして、黙食や一人遊びを求めているようで、つらい」。静岡県内の保育関係者から静岡新聞社にこのような声が寄せられました。感染しても重症化リスクの低い子どもの感染対策はどうあるべきかー。医師や県職員、保育士や保護者を招いて座談会を開きました。
 出席者は、第5波が収まり、12歳以上へのワクチン接種が広がっている今こそ「行き過ぎた対策を見直すべき」との認識を共有しました。


出席者 後藤幹生氏(静岡県健康福祉部参事)
    安田佳子氏(静岡県PTA連絡協議会副会長)
    塩田 勉氏(静岡済生会総合病院小児科医)
    岩井一也氏(静岡市立静岡病院感染管理室長)
    村松幹子氏(全国保育士会会長)
    
静岡新聞社記者 伊豆田有希、佐野由香利

★INDEX★
▼強まる感染対策 理想の保育、教育との矛盾
▼心身への影響は
▼子どもは「びっくりするほど軽症」
▼いずれは「大人にとっても普通の風邪」に
▼あらゆる所にコロナ影響
▼医療体制確保に莫大な税金投入 若者に大きな負担
▼至る所にある効果の低い対策 気になる他人の目
▼「大丈夫」というメッセージ
▼対策緩める転換点

 

強まる感染対策 理想の保育、教育との矛盾


記者 保育や教育の現場、保護者の立場から子どもの感染対策をどう感じていますか。

安田氏 学校は、子どもたちが安全に学校生活が送れるように手指消毒や物品消毒など感染対策を頑張ってくれています。保護者としてとても感謝しています。各家庭でも手を抜いてはいけないと対策をしています。職場の障害児を対象にした学童保育では、過敏でマスクを着けられない子や消毒ができない子がいます。ソーシャルディスタンスも正直取れないので、できる対策は手洗いぐらいです。学校も家庭も職場も対策に手間も時間もかかっていますが、子どもたちと関わる時間を割いてまでそこに費やさなければいけなくなっている状況は何とかしたいです。

村松氏 園ではスタッフが子どもと密接に触れ合い、子どもたちは群れて生活します。国内でコロナの患者が発生した当初は、三密を避けてどうやって保育を成り立たせればいいのかと悩みました。一方、当園では掃除をきちんとして感染症を抑えることを日常業務として行っていたのでコロナの対策もやるべきことは変わらないと分かると、神経質にはなりませんでした。マスクが正しく着けられない園児もいるので着用は求めていません。全国では保育園でクラスターが発生し、休園や登園自粛要請をする所もありました。発話が盛んになる2歳児にもマスクをさせたり、洗えない布や木のおもちゃを使わなかったりする園もあります。替えのマスクを持参するよう求める園もあるそうです。正確な情報がないので過剰な対応をせざるを得ないのでしょう。対策を徹底するほど、私たちが展開したい保育が難しくなる矛盾を感じます。


 

心身への影響は


記者 感染対策によって子どもたちの心身に何か影響は出ていますか。

安田氏 学童保育では、コミュニケーションツールとなる会話を制限する選択肢はありません。子どもたちはできない事がほとんどないので、ストレスや心境の変化はあまりないと思います。子どもの事を第一に考えるのであれば、大人が十分な対策をして子どもたちの心に変化を与えるほどの窮屈感を与えなくてもいいと思っています。一方で周りの保護者からは「短縮授業をしているのに登下校の時間は密になっている」「子どもの運動会や合唱コンクールを生で見たい」など様々な意見を聞きます。「感染力が強まったから、もっと密を避けなければ」というムードが先行し、正解が分かりません。子どもの活動が制限されるほど、保護者にとっては疑問ばかりが増えている気がします。

村松氏 乳幼児は家族と日々の生活を普通に送っています。遊んで満足できれば我慢もないのでしょう。

塩田氏 マスクの着用は子どもの認知に影響を与え、発達の弊害に成り得る可能性を指摘する調査結果が出ています。乳幼児にウイルスは怖いという教育をこれだけして、どのような影響が今後出てくるかはまだ読めませんが、大人がしっかり考えなければいけないと思っています。また病院では、NICU(新生児集中治療室)で父親が子どもと面会ができずに父性が育たないことが課題になっています。


 

子どもは「びっくりするほど軽症」


記者 県内の学校や園の感染状況を教えてください。

後藤氏 夏休み明けに、学校クラスター(感染者集団)の多発を懸念していましたが、そうなりませんでした。保育園や放課後児童クラブでは、大人が偶然ウイルスを持ち込んだとみられるクラスターが発生しましたが、10人未満にとどまりました。大人の事業所で発生したクラスターの方が発生数も規模も大きいです。

塩田氏 当院ではコロナでこれまで入院した子どもは2人、うち酸素を投与したのは1人でした。静岡市内全体でも入院した子どもは10人未満です。びっくりするほど軽症です。小児科ではコロナで陽性が出ると「まず大丈夫」と安心します。一方で今春以降に大流行したRSウイルスは当院だけで70人入院し、ほとんどが酸素投与しました。RSウイルスやインフルエンザはそれぞれ年間数十人の小児が命を落としています。 

村松氏 そんなに軽症だなんて、想像と違いました。

記者 しかし子どもがウイルスを家庭に持ち帰るのではと心配する保護者は多いです。

岩井氏 コロナは子ども同士や、子どもから大人にはうつりにくいです。高齢者や基礎疾患があるなど、重症化リスクのある人の大半はワクチン接種を済ませています。もし感染しても重症化しないように、すぐ治療が受けられる態勢が整っています。保護者世代の接種も進んでいます。少なくとも子どもはかかっても大丈夫だと思います。入院が必要な子に限っても、10代の重症者割合は0%、10歳未満は0.1%。致死率も0歳から30代までは0%です。当院に今入院している方はワクチンを打っていない40、50代の肥満の方です。重症化しやすい人の特徴は明らかになっています。




 

いずれは「大人にとっても普通の風邪」に


記者 学校や園での対策、いつまで続くのでしょうか。

後藤氏 2009年の新型インフルエンザが数年後に季節性インフルエンザになったように、コロナも変異を繰り返しながら普通の風邪になっていくのではないかと思います。現在は感染症法で、保健所が全てを掌握するエボラ出血熱や結核などと同じ「1〜2類」相当として扱われていますが、内服薬ができれば、季節性インフルエンザと近い部類になり、2年半後ぐらいには大人にとっても普通の風邪に近いものになるのではないかと考えています。
病院に行って子どもも大人も薬を処方してもらえることが感染症のゴールです。

村松氏 毎日感染者の人数が報告されると、その一人にならなくて良かったと思ってしまいます。感染者がインフルエンザのように発表されずに「コロナに感染したけど軽症で済んだよ」という話が自然にできるようになるのでしょうか。

後藤氏 まだどこの県もやっていませんが、本県はいずれコロナの感染者数を1週間に1回の報告の形にすることを考えています。




 

あらゆる所にコロナ影響


村松氏 特別養護老人ホームに入所している母とは面会ができない状態です。このまま亡くなったら看取りもできなくなってしまいます。コロナでいろんな事ができなくなり、それが当たり前になっていることがすごく悔しいです。

安田氏 ワクチンを接種したのに生活が変わらなければ、何のためのワクチンなんだろうと思います。他県に住む両親は年に1回孫に会えるのを楽しみにしています。会えないと気持ちが弱ってきて、その方がコロナより心配です。

村松氏 保育園の行事では、保護者の方々にこれまで通り子どもたちの活躍を見せてあげたいです。換気対策や密を避けるなどの対策をすれば、今まで通りの行事の組み立ても可能でしょうか。

後藤氏 換気をして密になっていなければいいと思います。


 

医療体制確保に莫大な税金投入 若者に大きな負担


後藤氏 県が今求められていることは、医療提供体制の確保です。子どもたちが大人になって返し続けなければいけない莫大な税金がコロナ対策につぎ込まれています。県内のコロナ患者受け入れ病院に一日総額で1億円ほど出しています。さまざまな組織、団体からの要望を受けて、国が患者の受け入れを促進するために作った制度です。コロナの患者に対しては保険診療報酬が通常の3倍になるルールもできました。今までなかった補助金がつぎ込まれています。この負担は若い人たちにのしかかってくるでしょう。日本の社会にとって今一番の大きな問題です。

岩井氏 コロナ患者は一般病棟に普通の患者として受け入れたらいいと思っていますが、コロナが感染症法で「1〜2類」相当と位置づけられていることや補助金が入ることで、それが難しくなっています。病床を空けておくだけで補助金がもらえるんです。個室で対応するなどの対策を取れば感染が広がることはないはずですが、いつまでこんなことを続けるのかと思っています。 

 

至る所にある効果の低い対策 気になる他人の目


記者 学校や園の現状を感染症医としてどう感じていますか。

岩井氏 文部科学省のマニュアルには学校が子どもの「検温結果と健康状態を把握する」とありますが、コロナの病態からすると感染抑止効果は低いでしょう。当院は玄関前の検温はしていません。入院したコロナ患者の中で当院に来た際に発熱があった人は15%でした。発熱の有無で感染者か否かを判別できないことが分かりました。子どもの三分の一は無症状です。デルタ株で有症者が多くなったとはいえ、発熱は一時的です。当院はアクリル板も取りました。園の「保護者は送迎で園内に入ってはいけない」県の「県境をまたいではいけない」という呼び掛けなど、非科学的な対策が至る所にあります。無駄かもしれないと感じていても他人の批判の目が怖いからやめられないということもあるのでしょう。病院も学校も園も事業所もクラスターだけは出してはいけないと血眼になっています。「感染して迷惑かけてごめんなさい」と謝る患者さんもいます。病気になって謝らなければいけない異常な世の中になっています。皆が恐れている程の病気なのかどうかを見直す必要があります。

後藤氏 マニュアルは手引きで、「その通りにやらないといけない」というものではないです。県民には常に「できる範囲」での対策をお願いしています。例えば幼い子にマスクをさせるのはできる範囲ではありません。保護者や園がそう判断すれば、当然なしでいいです。ただ、その判断を厳密に考える人もいれば大雑把に考える人もいます。登下校や遊んでいる屋外では飛沫(ひまつ)が相手に直撃しないことは想像すれば分かりますが、外でもマスクを徹底させようとする人がいます。想像力、判断力の差があり、日本の教育の問題が出てきているとも感じています。

村松氏 保育園はそれぞれのお家事情があります。マニュアル通りにやっていては保育になりません。日々の実践の中で得たものが一番力を発揮します。


 

「大丈夫」というメッセージ


塩田氏 感染者を無くす「ゼロコロナ」を目指すと社会全体に無理が生じます。コロナが発生すると責任を問われる立場の人は、「この対策が不要だ」と強く言い出せないです。僕も去年は公の場で「子どもにはコロナは風邪だ」と言い出せませんでした。施設内のアクリル板設置や入口の検温など「一応しておこう」というパフォーマンスとも言える過剰な対策が行われています。そうした行為をすればするほど感染を許さない雰囲気を作ります。子どもはコロナにかかってはいけないと無邪気に思ってできることを頑張ろうとします。そのような中で感染すると、「あの時手を洗わなかったのがいけなかったかもしれない。ごめんなさい」と謝ります。学校や園では、失敗を許して挑戦できるような教育が行われていますが、コロナは「失敗してはいけない」と無意識に発信していないかを考えてほしいです。多少リスクを許容して「大丈夫だよ」というメッセージを発信することが大事だと思っています。

岩井氏 その出所は医療従事者だと思います。面会禁止、玄関での体温測定を行い「病院は大変なので皆さん協力してください」と言っています。十分に患者を受け入れていない病院は、お願いだけして自ら差別を助長させるようなことをしていると思います。僕は市民として医療者側に言いたいです。

後藤氏 子どもはもちろん、大人でさえ食事中や休憩中の気が緩んだ時にマスクを着けないで大声で喋ってしまいます。ワクチンを打って感染しても「重症化しなくて良かったね」と済ませられる社会にしなければいけません。寛容に認めることが大事だと思います。子どもからうつるのが心配なら大人がしっかりワクチンを打ち、調子が悪い時は部屋を分けて寝るなどインフルエンザの流行期に行っていたことと同じことをできる範囲ですればいいです。




 

対策緩める転換点


村松氏 保育の現場では子どもたちが感染症にかかるのは当たり前で、うつるべき時にうつって免疫をつけ育っていきます。コロナも同じように考えていいと感じました。私たちがあれもこれもと考える感染対策が世の中に閉塞感を生んでいるのかもしれません。各県それぞれのやり方があるかもしれませんが、全国の保育士会の会員には「子どもの成長を大事にしていきましょう」としっかり言おうと思います。

岩井氏 大人は「子どもはかかっても大丈夫ですよ」と言う覚悟が必要ですね。子どもに感染させないではなく「感染して大丈夫」と言う覚悟です。

塩田氏 これまでは「国が明日にでも1,2類相当の感染症から外すと言ってほしい」とすがりたい気持ちでいっぱいでした。でもやっぱりそう簡単にはいきません。期待していては何も進まないと思うようになりました。保健所が担っている自宅療養者らの健康観察を医療機関がフォローするなど身近にできることを行い、皆が「コロナは怖くない、普通の生活をしよう」という気持ちになることを目指そうと思っています。人目を気にした対策よりも、子どもの教育や保育、学ぶ権利の方がよほど大切なのは明らかです。緩めるところは緩めて実践してほしいです。

後藤氏 患者の発生も収まってきています。今がその転換点かもしれません。

安田氏 必要な対策、過剰な対策を聞いてとても気が楽になりました。今窮屈な思いをしている子どもたちがマスクを外して満面の笑みで友達と話している姿を見られる日がすぐそこまで来ているとイメージできました。やらなくてもいいことを切り捨てて、一歩一歩前に進みたいです。

 

いい茶0

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