追っかけわたしの特集

特集 : こち女

第二の人生 ドローンと共に離陸 消防団員/行政書士【こち女】

 東京五輪開会式のパフォーマンスで一層の注目を集めている小型無人航空機「ドローン」。多様な分野で利活用が広がる中、ドローンに人生の新たな展開を見いだした静岡県内の女性2人に、その出合いを聞いた。

焼津市消防団ドローン隊「スカイシュート」のドローンを操縦する山田久子さん=同市内
焼津市消防団ドローン隊「スカイシュート」のドローンを操縦する山田久子さん=同市内
ドローン飛行の申請を扱う行政書士の増田敏子さん=吉田町内
ドローン飛行の申請を扱う行政書士の増田敏子さん=吉田町内
無人航空機飛行に係る許可承認申請件数の推移
無人航空機飛行に係る許可承認申請件数の推移
焼津市消防団ドローン隊「スカイシュート」のドローンを操縦する山田久子さん=同市内
ドローン飛行の申請を扱う行政書士の増田敏子さん=吉田町内
無人航空機飛行に係る許可承認申請件数の推移

 
 ■災害時貢献期し訓練 焼津市消防団・山田久子さん
 「周囲の状況良し。離陸します」。ドローン操縦の送信機を手にした焼津市消防団ドローン隊「スカイシュート」隊員山田久子さん(70)の温和な表情が一変した。眼差しは鋭く、声は大きい。機体はふわっと上昇し、離陸。目の高さで静止(ホバリング)させて上下、左右、前後の動きを確認後、目的地へ飛行を開始した。
 ドローンは人やヘリコプターが近付きにくい場所を低空飛行し、搭載カメラで撮影した映像を遠隔地から確認できる。土砂崩れや火災などの災害現場で存在感を増している。
 同隊は県内初の消防団ドローン隊。2020年に入隊した2期生のうち女性4人は全国初の女性消防団員ドローン操縦者だ。その1人、山田さんは「ラジコンもファミコン(家庭用テレビゲーム機)も経験がない」と言う。しかし「消防団の活動服を着るたびに人に会える。元気が出る言葉に出合える。私はいつも得ることがある。その恩を市民に返したい」と最新機器の習得に挑戦した。
 消防団入団は55歳。「会社を定年退職した後はどう過ごそう」と思案し始めた頃、知人に誘われて救命支援活動を学んだのが始まりという。
 女性消防団員として防災訓練の大切さを広報する傍ら、出動機会のない災害現場での貢献を胸に秘めてきた。定年退職し、市の介護相談員を務める時以外は自由の身。ドローン隊は「活動服の恩返し」をする好機だった。
 20年、ドローンの仕組みや飛行ルールを定めた改正航空法を学ぶ座学と飛行訓練が始まった。同市内の大井川防災広場でドローンを前に山田さんは「緊張で頭は真っ白」。送信機のスティック2本を親指で操作しても思うように動かない。旋回飛行や8の字を描く「8の字」飛行はなおさら。機体を目視しなければならないのに、送信機から目が離せない。上達できない自分を「若い人たちのお荷物」と責め、眠れない夜もあった。訓練中に心が折れて涙があふれ出し、入隊を悔いた日もある。
 それでも会社員時代同様に「コツコツ続ければ大丈夫」と言い聞かせた。木片で模擬送信機を自作し、自宅でイメージトレーニング。訓練に参加できる日は全て参加した。年下の先輩たちが褒めてくれ、楽しいと思える瞬間が徐々に増えた。
 飛行訓練の最終課題は、風に流されても自動的に特定位置を保持する「GPS機能」なしの、高度な操縦。周囲が固唾をのむ中、完遂すると、「投げ出さなくて本当に良かったと、涙が出た。皆さんも泣いてくれた」。国土交通省にドローンの飛行許可・承認を申請する際に必要な飛行経歴は10時間以上。その倍以上の時間を要して所定技能を習得した。
 隊員として初めて操縦したのは林野火災訓練。海岸沿いの防風林を海上から動画撮影することに成功した。ドローンは操縦、機体と周囲の監視、情報解析と「一つのチーム」で運用する大切さを痛感した。そして、「災害発生時、さっとドローンを上げるために訓練を重ねたい」と意を強くしたという。
 
 ■書類作成「活用懸け橋に」 行政書士・増田敏子さん
 「『ドローンって何?』から仕事を始めて、周囲を見ると誰もいない。ブルーオーシャンの状態だった」。行政書士あやめ事務所代表の増田敏子さん(50)=吉田町=は、ドローンを飛行させる人や組織が国土交通省に提出する飛行許可・承認の申請書類を作成している。ブルーオーシャンとは競争相手不在の未開拓市場を意味する。行政への許認可申請を扱う行政書士にとって花形分野は建設業。ドローンを主要分野とし、かつ女性であることは全国的にも珍しい。
 出合いは偶然という。2015年4月の首相官邸ドローン落下事件を機に、同12月に施行された改正航空法。対象となる無人航空機の定義と飛行ルールが定まり、航空機の安全に影響を与えうる空域や人口密集地上空の飛行は許可、夜間や目視外などの飛行方法は承認がそれぞれ必要になった。17年6月の行政書士事務所開業を控えた増田さんにも、知人から申請書類の作成依頼が舞い込んだ。
 行政書士を志したのは40歳を前に、夫の放った言葉が胸に刺さったからだ。「人生80年とすれば仕事も折り返し地点。そろそろ子どもたちではなく、自分のために仕事をしてもいい」。子育てと両立できるよう身を粉にして働いてきた。関心があったのは法律の勉強。3度目の挑戦で国家試験に合格した。ドローンの存在を知ったのは45歳で次の人生に歩み出す直前だった。
 ドローンについて、詳しいことは知らなかった。相談したくてもドローンを扱う先輩が見当たらない。理解を深めるため操縦者向けのスクール受講を即決し、自らも、申請に必要な技能と知識を習得した。
 機体は目覚ましく進化し、飛行目的は測量や農薬散布、撮影、インフラ点検などに拡大。飛行の申請もそれに比例するように増えた。法定ルールに基づき、申請者の機体や操縦技能、運航管理体制などを確実に精査する一方、できる限り許可が降りるよう国交省との協議にもひるまず臨む。開業以来、申請は約400件、許可率は100%という。
 「申請者がドローンを生かして次のステップに進むための懸け橋になりたい。私自身も少しずつ成長できていることに感謝したい」と増田さんは話す。
 
 ■増える許可承認申請 4年で4.4倍に
 国土交通省によると、ドローンなど無人航空機の飛行許可・承認の申請は、改正航空法施行から間もない2016年度は1万3535件、20年度はその約4.4倍の6万68件だった。
 国交省は無人航空機の申請で操縦者について「飛行経歴10時間以上」などを審査基準とする。要件を満たした団体の講習を受けてこれら技能や知識を習得した場合は、申請が簡略化される。
 21年6月公布された改正航空法により今後、機体の安全性に関する認証制度(機体認証)と操縦者の技能に関する証明制度(操縦ライセンス)が創設され、有人地帯上空での補助者なし目視外飛行を可能とする。

いい茶0

こち女の記事一覧

他の追っかけを読む