盛り土「人災」長期戦 責任追及へ集団訴訟【再起への一歩 熱海土石流3カ月①】

 「二度と同様の被害が起きないよう一石を投じる」「集団の力で制度見直しや法整備、悪徳業者の排除につなげたい」-。熱海市伊豆山で7月に発生した大規模土石流。起点の土地で行われた不適切な盛り土が土石流の原因になった可能性が指摘される中、28日に被災者らが土地の現旧所有者などを相手取り損害賠償請求訴訟を起こした。平穏な生活を一変させられた遺族らは「人災」の可能性と業者の責任を追及する長い闘いに踏み出した。

盛り土が崩落した土石流の起点。発生からまもなく3カ月を迎える=29日午前10時ごろ、熱海市伊豆山(静岡新聞社ヘリ『ジェリコ1号』から)
盛り土が崩落した土石流の起点。発生からまもなく3カ月を迎える=29日午前10時ごろ、熱海市伊豆山(静岡新聞社ヘリ『ジェリコ1号』から)

 弁護団共同代表の加藤博太郎弁護士は「時間がたつと社会の関心が薄れる」と、風化を防ぐためにスピード感は重要と捉えてきた。被災地からは「なぜ止められなかったのか」と、長年にわたる違法行為を阻止できなかった行政への不満の声が高まりつつある。
 盛り土を造成した神奈川県小田原市の不動産管理会社(清算)の元幹部は、盛り土を含めた土地を現所有者の男性に売却した2011年2月以降も、熱海市内の別地区の山林を複数所有し、土地改変行為に伴う土砂のトラブルを繰り返していた。
 伊豆山の盛り土現場で旧所有者の元幹部を何度も指導した市の元職員は「条例や法整備の穴をかいくぐるすべを熟知していた。関連会社を名乗る4~5人の現場監督を入れ替えながら置き、責任逃れを想定した問答を繰り返された記憶が強い」と苦々しく振り返る。
 盛り土を規制する県土採取等規制条例は、行政による計画変更や工事中止の命令に従わない場合の罰則が「罰金20万円以下」。規制の実効性が低い中、相手は行政対応の枠を超えたら「すぐさま訴えを起こすような業者」(別の元市職員)だったことにも腐心した。
 関係資料などによると、税の滞納で11年2月に市が差し押さえた盛り土付近の土地は、わずか数日後に現所有者が取得。今年6月末には起点付近で不適切に土砂を投棄したとして、市が現所有者側に中止指導した。土砂を積んだダンプカーが行き交うのを住民らが確認し、通報していた。「もっと強い行動を起こせなかったか」(市議)との関係者の悔恨の念は尽きない。
 刑事告訴を熱海署が受理し、現旧所有者らへの責任追及が本格的に始まる。県内の専門家からは「刑事告訴では訴えの根拠となる関連法を明確化する作業がまずは必要になる」との指摘があり、長期戦が予想される。崩落の危険性を所有者側が認識していたとする遺族の主張をどこまで裏付けられるかが、立件の焦点になりそうだ。
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 土石流発生から10月3日で3カ月となり、被災地を取り巻く環境は新たな局面に入る。不条理と闘う意志を固めた遺族。不安を抱えながらも再び前を向き、新生活を始める被災者。かつてのコミュニティーを取り戻そうと奮起する住民。それぞれの一歩を追う。
 
 <メモ>7月3日に発生した熱海市伊豆山の土石流の犠牲者は26人に上り、太田和子さんが今も行方不明。県によると、土石流の起点となった盛り土の高さは、2009年時点の計画で「15メートル」となっていたが、発生直前は最大約50メートルだった。条例で義務付けられる排水設備がなかった疑いもある。遺族や被災者らでつくる「熱海市盛り土流出事故被害者の会」は28日、土地の現旧所有者などに対し民事訴訟を起こした。母瀬下陽子さん(77)を亡くし、同会会長を務める瀬下雄史さん(53)は現旧所有者を業務上過失致死容疑などで刑事告訴もしていて、遺族と行方不明者の親族計11人が10月中に新たに刑事告訴する見通し。

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