ドラマ「前科者」、映像化で考える「更生保護」 再犯防ぐ歩みに寄り添う

 保護観察処分を受けた人や刑務所から仮出所した人などの再犯を防ぐ目的で社会復帰を支援する保護司を描いた漫画「前科者」(原作・香川まさひと、作画・月島冬二)が、今秋WOWOWで連続ドラマ化され、年明けには映画が公開される。静岡県は静岡市で約130年前に金原明善らが全国初の更生保護施設を開いたことで、現在の更生保護制度の出発地点とされている。映像作品発表を機に、制度の現状とこれからを考えた。

ドラマ「前科者」の一場面 (c)香川まさひと・月島冬二/小学館 (c)2021「WOWOWオリジナルドラマ 前科者 -新米保護司・阿川佳代-」製作委員会
ドラマ「前科者」の一場面 (c)香川まさひと・月島冬二/小学館 (c)2021「WOWOWオリジナルドラマ 前科者 -新米保護司・阿川佳代-」製作委員会
加茂義隆プロデューサー
加茂義隆プロデューサー
日本最古の更生保護施設の流れをくむ静岡県勧善会=9月下旬、静岡市駿河区
日本最古の更生保護施設の流れをくむ静岡県勧善会=9月下旬、静岡市駿河区
近年の保護司数の推移(県内)
近年の保護司数の推移(県内)
ドラマ「前科者」の一場面 (c)香川まさひと・月島冬二/小学館 (c)2021「WOWOWオリジナルドラマ 前科者 -新米保護司・阿川佳代-」製作委員会
加茂義隆プロデューサー
日本最古の更生保護施設の流れをくむ静岡県勧善会=9月下旬、静岡市駿河区
近年の保護司数の推移(県内)

 (文化生活部・橋爪充、社会部・佐藤章弘)
 
 ■「前科者」映像化 加茂義隆プロデューサーに聞く
 「前科者」の映像化を企画した加茂義隆プロデューサーに、製作のいきさつや作品に寄せる心情を聞いた。
 -どんな作品か。
 「女性保護司が主人公のヒューマンドラマ。道を踏み外した人たちが彼女と向き合うことで変わっていき、彼女自身も成長する。脚本執筆時に岸善幸監督や演出チームが保護司や弁護士、更生保護に関わる方々を入念に取材した。保護司と対象者の関係について、手続きも含めてうそがないよう演出している」
 -漫画との出合いは。
 「2018年に、単行本の第1巻を手に取った。恥ずかしながら保護司が無給の国家公務員であることも知らなかったが、読み進めるうちに、知的好奇心を刺激された。映像化を企画した時は『地味だ』『何、それ』といった反応もあった。でも、知られていないことは知的好奇心に変換できるとポジティブに考えた」
 -映像化を決めた時の心境は。
 「近年、(インターネット上で)人が人を厳しくジャッジする姿が目立つ。例えばヤフーニュースのコメント欄には辛辣(しんらつ)な言葉が並ぶ。『マウント』『論破』といった対話とは正反対の言葉が出てきて、嫌な思いをしている。そんな時に『前科者』を読んだ。保護司と対象者というそれまでの人生で全く関わりがない人同士が、真剣に将来に向き合い、きれい事でない言葉で応酬している。美しいと思った。厳しい言葉にも人情があり、心が温まった。この人間関係をしっかり描きたいと思った」
 -岸監督に決めた理由は。
 「過去の仕事から、作品をつくる際にものすごく取材する方だと知っていた。満蒙(まんもう)開拓団をテーマにした「開拓者たち」(12年)や、東日本大震災の被災地のラジオ局を描いた「ラジオ」(13年)などNHKドラマの印象も強かった。現実とドラマによるカタルシスのバランスが適切。原作者の香川さんも元々岸監督がお好きで、快諾してくれた」
 -有村架純さんを主演にしたのはなぜか。
 「社会性が強い主題だが、ただ地味なだけの作品にしたくなかった。人と人の向き合い方というシンプルだが難しい題材で、犯罪のリアルも描かなくてはならない。罪を犯した人を受け入れる役柄なので、言葉だけでない包容力、包まれるような優しさを表現できる役者が必要だった」
 -ドラマと映画の製作を通じて認識したことは。
 「保護司のなり手が増えたらいいとは思うが、増えない理由も理解できた。現在の仕事をしながら保護司が務まるか。自分は『難しい』と言うしかない。だが、罪を犯した人と保護司という関係を、広く捉えることもできる。間違いを犯した友人や家族と自分。心ない言葉を交わした他者と自分。そうした状況をどう乗り越えるかは普遍的な問題だ。作品が、身近な人に手を差し伸べる気持ち、甘える勇気に結び付いたらうれしい」
 
 かも・よしたか 1983年、東京都出身。2007年、ハピネット入社。16年、WOWOW入社。邦画やドラマの製作に携わる。主なプロデュース映画は「アフロ田中」(12年)「ピース オブ ケイク」(15年)。
 
 ■制度、施設の源流は静岡市 金原明善らが主導
 現在の更生保護制度は、1888年3月に静岡市に設立された静岡県出獄人保護会社が源流とされる。
 主導したのは、天竜川の治水に力を注いだ金原明善(1832~1923年)と、「立志社の獄」に連座して静岡監獄署で服役した後、同署の副典獄になった川村矯一郎(1852~91年)。1880年から県内監獄署(刑務所)で始まった囚人の善導を行う「勧善会」活動を発展させ、欧米諸国の保護会社の情報を収集して組織を立ち上げた。県内の有力者約50人が主唱者として名を連ねた。
 当初は民間が中心だった更生保護事業は1939年の司法保護事業法で国の制度として位置付けられ、戦後の保護司法制定などを受けて現在の仕組みが整えられた。
 静岡県出獄人保護会社は11年に静岡県勧善会に事業を引き継いだ。現在も静岡市駿河区で活動を続けている。全国に103カ所ある更生保護施設の先駆けとして、存在感を放つ。
 人口減、刑務所の収容人員減などから、収容保護者数は減っている。1983年から勧善会に関わる近藤浩之施設長(68)によると、80年代は年間約100人を収容していたが、近年は年間10~20人ほどにとどまっている。
 衣食住を提供し、社会復帰支援を行う。国が定めた期間は原則6カ月だが、1年以上居住するケースもある。近藤施設長は「いつの時代も社会の防波堤としての役割に変わりはない。更生を望む人を手助けし、一般の方にとって生活しやすい社会の形成に貢献する」と施設の意義を語った。
 
 ■保護司なり手確保 インターンシップなど模索 
 静岡県内では全国同様、保護司の確保が課題となっている。静岡保護観察所が中心となり、人材発掘に向けた取り組みを模索している。
 保護司は法相から委嘱された非常勤の国家公務員。ただ、給与は支給されない。保護観察中の対象者と定期的に面接し、助言したり相談に乗ったりする。任期は2年。再任は原則76歳未満だが、78歳になるまで従来の活動を継続できる特例制度が4月に施行された。
 「孤独にさせない。頼れる人を作ってあげることが大切」。静岡市葵区保護司会の松永厚司さん(73)は保護司の役割をそう思う。一方、保護司には、対象者と面接して立ち直りを支援する「処遇活動」だけではなく、啓発や広報、研修など地道な「保護司会活動」もある。「(時間的な融通が利きにくい)現役世代だとなかなか難しい」と実感する。
 県内の定数は1495人。近年は割り込む状態が続き、今年1月現在は1323人(充足率88・5%)。10年前と比べ、121人減少した。静岡保護観察所の吉原直深企画調整課長は、なり手不足の要因として、地域関係の希薄化や定年引き上げといった就労形態の変化などを挙げる。
 対策として自治体、自治会関係者らが参加する「候補者検討協議会」を設けて新たな人材を見つける場をつくり、保護司の活動に触れられるインターンシップを開催。現役の保護司が活動しやすいよう、自宅以外の面接場所も用意してきた。効果が出たのか、10月には充足率が90・1%に回復する見込みだ。
 吉原課長は「相手に寄り添い、共に一歩一歩進んでもらえる人に保護司になってもらえれば」と期待する。

 <メモ>「前科者」は2018年から漫画誌「ビッグコミックオリジナル」(小学館)に連載中。コンビニ勤務と新聞配達で生計を立てながら保護司を務める阿川佳代が主人公。連続ドラマと映画では有村架純が演じる。漫画を下敷きに展開するドラマはそれぞれ殺人、傷害、覚醒剤取締法違反の前科がある3人と阿川のやりとりを描く。11月20日から全6回の放送・配信で、「あゝ、荒野」(17年)の岸善幸監督がメガホンを取り、石橋静河、大東駿介、古川琴音らが共演する。岸監督による独自脚本の映画は22年1月公開予定で森田剛が登場する。

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