開業後のまち、議論着手 村山顕人氏・東京大大学院准教授【大井川とリニア 私の視点】

 リニア中央新幹線の開業は、停車駅がない静岡県の社会経済にどんな影響をもたらすか。静岡市は人やモノの流れの変化を見据え、開業に伴う影響について本年度から本格的な調査に乗り出した。調査結果を基にまちづくりの方向性を議論する研究会で、座長を務める東京大大学院の村山顕人准教授(44)=東京都中野区=は「外部環境の変化に柔軟に対応する必要がある」と強調する。

村山顕人氏
村山顕人氏

 ―研究会の目的と役割は。
 「リニアが開業すると、県外の停車駅沿線に首都圏から1時間以内で到着することができる。静岡市に来る人の流れが少なくなり、産業構造に変化が起きるのではないかという危機感が市内経済界で高まった。一方で、全線開業後に東海道新幹線の停車本数が増加することも想定される。早い段階で影響を的確に捉えて柔軟に対応する必要がある。その上で静岡市の強みと課題を分析し、長期的なまちづくりについて議論する」
 ―現状で予想される影響は。
 「観光面ではポジティブな影響が考えられる。ほとんどがトンネルのリニアと違い、景色が楽しめる新幹線。停車本数が増えて、観光資源をうまく活用できれば、静岡を訪れてもらう機会になる。一方で、ビジネス客はリニアにシフトするのではないか。新型コロナウイルスの影響でテレワークが進んだ。人々の行動や生活様式の変化はリニアと東海道新幹線の需要に影響を与え、静岡市の都市構造にも変化を与えるので複雑だ」
 ―どのような調査を行うのか。
 「まずは人口や産業構造の現状を把握する。コロナですでに始まった人の動きの変化はリニアの予行演習だと捉えて分析する必要がある。開業後の移動予測も行う。JRから新幹線の具体的な本数の情報は示されていないため、いくつかの仮定を置いて考えるしかない。数字の変化だけでなく、人々の意識と行動がどう変わるのかも重要だ。市民や市内企業への聞き取りもする。その上で、静岡市の強みと課題を抽出する」
 ―今のうちから、開業後を見据えたまちづくりを検討する意義は。
 「静岡市の場合は危機感から検討を始めたが、リニアに限らずコロナや災害もリスクだ。大事なのは外部環境が変化した場合にどう対応するか。検討の時期が早い、遅いではなく日ごろから考えるべきだ」
 
 ■取材後記
 2020年の都道府県別の移住希望ランキングで本県は初めて1位になった。東海道新幹線で首都圏から1時間前後という地の利が要因の一つという。
 ただ、リニア中央新幹線が開業すれば品川―名古屋間を40分、大阪までは67分となる。首都圏までの近さという本県の優位性は相対的に低くなる。リニアの停車駅ができる山梨、長野、岐阜などの各県もライバルとなり得る。
 大井川の流量減少や南アルプスの生態系の問題は科学的な議論が十分に必要なのは言うまでもない。その一方で、まちづくりの視点に立てば、開業後を見据えて県内の各市町がそれぞれの特色や課題を改めて検討し、早期に方向性を見定めることも大事だ。

 むらやま・あきと 名古屋大環境学研究科准教授などを経て現職。静岡市都市計画マスタープラン、立地適正計画の策定に携わり、2020年度から市リニア開業後のまちづくり研究会座長を務める。専門は都市計画。埼玉県出身。44歳。

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