長野県 崩壊地に盛り土工 豪雨災害の懸念拭えず【大井川とリニア 県外残土の現場から㊤】

 静岡工区を除き工事が進むJR東海のリニア中央新幹線南アルプストンネル。工事で発生した残土はどのように処理されているのか。他のトンネルではどうか。熱海市伊豆山の土石流災害では盛り土が被害を甚大化させたとの指摘があり、盛り土や建設残土への関心が高まっている。7月中旬、県外のリニア工事現場を訪ね、地域に暮らす人の声を聞いた。 

リニア工事で発生する残土を使った護岸工事の計画がある小渋川沿いの「鳶ケ巣沢」。豪雨災害を経験した住民の中には工事に慎重な人もいる=7月中旬、長野県大鹿村
リニア工事で発生する残土を使った護岸工事の計画がある小渋川沿いの「鳶ケ巣沢」。豪雨災害を経験した住民の中には工事に慎重な人もいる=7月中旬、長野県大鹿村
リニア中央新幹線のルート
リニア中央新幹線のルート
リニア工事で発生する残土を使った護岸工事の計画がある小渋川沿いの「鳶ケ巣沢」。豪雨災害を経験した住民の中には工事に慎重な人もいる=7月中旬、長野県大鹿村
リニア中央新幹線のルート

 静岡市と境を接する長野県南部の大鹿村。東に3千メートル級の南アルプスの山々、西は伊那山脈に隔てられた山あいの村は、リニア南アルプストンネル長野工区と、伊那山地トンネル青木川工区の工事が進む。2016年11月から順次、村内4カ所でトンネルの非常口を掘る工事が始まった。
 JRは村内で計約300万立方メートルの残土の排出を見込む。村やJRによると、残土は村内外の道路や産業用地の整備、宅地造成などに利用する。南ア赤石岳を源に村内を流れる小渋川沿いをたどると、高さ5メートルを超える残土が仮置きされ、シートがかぶせられていた。
 村と中央自動車道松川インターチェンジをつなぐ2本の新しい県道トンネルは、村外への残土の運搬をしやすくするため、JRが費用の一部を負担して造られた。「(県道トンネル整備で)道路はまっすぐになり、道幅も広がった。生活道路としての恩恵は大きい」。村リニア対策室の担当者は強調する。
 残土は小渋川沿いの崩壊地「鳶ケ巣沢(とびがすさわ)」の護岸工事にも使う。約20万立方メートルをあてがう計画。近くで稲作を営む男性(78)は県道トンネルを歓迎しつつ「川沿いに盛り土を造って大雨の時に崩れないのか」と対岸の大西山を不安そうに見つめた。
 1961(昭和36)年、伊那山地一帯を襲った「三六(さぶろく)災害」が記憶に残る。大西山の山腹が崩壊し、大鹿村の42人を含む136人が犠牲になった。男性は「山が上から覆いかぶさってくるようだった」と当時の様子を振り返る。
 村中央構造線博物館顧問の河本和朗さん(70)によると、村の地盤はもろく、隆起と崩落を繰り返して現在の急峻(きゅうしゅん)な地形になった。「川の浸食で天然ダムができ、災害時に決壊して下流に押し寄せるかもしれない」と工事に懐疑的だ。
 護岸工事の安全性を議論する村の技術検討委員会の委員長を務めた土屋智静岡大名誉教授(68)は、盛り土は排水処理や浸食対策の検討を経て「これまでに経験した災害には耐えられる設計になった」と強調する。ただ、「崩壊地の末端に盛り土工をするのは本来は良くない」と地山が崩れた場合の被害の可能性に言及した。
 昨年7月の豪雨では、残土の仮置き場を設けた小渋川上流、釜沢地区への道路が地すべりで寸断され、リニア工事も約半年、中断した。同地区の自治会長中村政子さん(63)は「地滑りの危険と隣り合わせの地域。安全対策と住民への説明を徹底してほしい」とJRに求める。
 (「大井川とリニア」取材班)

 <メモ>JR東海はリニア工事総量で5680万立方メートルの残土の発生を見込む。南アルプストンネル静岡工区は約370万立方メートル。同社は大井川上流部の燕沢(つばくろさわ)、藤島沢、剃石(すりいし)付近など7カ所に置き場を設ける予定。燕沢付近では360万立方メートルを置く計画で、盛り土の平面積は14ヘクタール。高さは約65メートルとなり、16階建ての県庁東館と同等。置き場は県有識者会議の指導などを踏まえて緑化する。

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